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来るべき世界  作者: うらじろ
第一部 老人異世界へ行く
24/29

24.接触

「街道前方より何かが来るよ」


 突然の猫ちゃんからの警戒の声にも、慌てることもなく指揮官は前方へ斥候を出した。


「近いですか?」


 猫ちゃんと俺は隊列より10mほど先にいる。走って追いついてきた自衛官は聞いてきた。


「道がうねってるから距離は近いけど、まだ余裕はあるよ」


 それを聞いて、後方へ報告に下がる。即座に車両を道から外して、林の中へ隠すと隊員も道の両側に身を隠す。相沢陸曹と川村陸士という隊員だけが俺たちと合流して、斥候の報告を待つ。俺はサビアを手招きした。


「猫ちゃんが言うには魔物じゃないらしい。たぶん人間なんだけど、領主の兵だとやっかいだな」


「領主の兵がこんなところに来るとは思えませんけど、もしそうなら私が適当に追い払ってみます」


「あぁ頼む」


 俺は猫ちゃんにサビアから10m以上離れるように指示して、勝手に翻訳してしまわないようにした。俺と自衛官もできるだけ距離を取るように促したが、なんか文句がありそうな顔で睨まれた。そこへ斥候が帰ってきた。サビアと猫ちゃんも近づいて話しに加わる。これが結構面倒臭いんだが、猫ちゃんの能力を教えるつもりはない。


「トカゲが荷車を曳いた隊列が来ます」


「兵士は居たか?」


「統一されていない鎧で武器を携えたものが数名いるようです」


 サビアが口を挟む。


「たぶん商人とその護衛でしょう。何もしないでやり過ごせば問題ないかと思います」


 俺たちは街道の端っこで、小休止している風を装った。先にある曲がり角から隊列の先頭が現れる。護衛のひとりだろう。腰には短めの剣を下げ、肩に弓を掛けている。背中に盾を背負っているらしい。カメムシのように見える。俺たちを発見すると警戒したが、動かないのを見て安心したのか後ろを振り向いて何事か伝えている。後方からトカゲに乗ったのが、隊列を追い越して此方へ向かってくる。


 トカゲはドタドタと早足で駆けてくる。やはり腰に剣を下げ、手には槍を持っている。そして背中に盾。身体は皮鎧に覆われていて、精悍な雰囲気の男だった。近づくなりトカゲから飛び降りると、槍を後ろに隠すように持ち替えて言葉を発した。攻撃の意思はないよ、でも攻撃されたら反撃しますよってことだ。


「旅のお方とお見受けする。つかぬ事をお聞きするが、此方に魔法師の方は居られるか」


 俺たちには何を言ってるのかさっぱりだ。サビアのみが理解している。黙ってやり過ごすつもりが、なにか厄介なことになりそうな雰囲気だった。ここで時間が掛かりすぎると、伏せている皆に負担がかかる。通訳のノーム君をここに配置すべきだと気づいたがもう遅い。


「私はサビア・シュテッピンという魔法使いだ。どのようなご用件でしょうか?」


「これは申し送れました。私は隊商の護衛を勤めるグナスと申します。まさか貴族様がいらっしゃるとは思いもしませんでした。お詫び申し上げます」


 そう言って、深々と頭を下げた。(苗字があるのは貴族か名士のみであるため)


「いや、気にせずお話いただきたい」


「お気遣い忝く存じます。されば、商隊内に怪我人がおりまして、傷薬の持ち合わせが無くなり困っております。何卒お力添えをいただければ幸いでございます」




 なんだか固い遣り取りをしているような感じがした。横では相沢陸曹と川村陸士が、声を潜めて話していたのが聞こえてきた。


「隊長、あの盾見てください。ボコボコになってますが、弾痕じゃないですか?」


「この世界にも銃があるのか?」


「どうなんでしょうね・・・。でも礫が当たったくらいじゃあんなにはならんでしょう」


「そうだな。剣や槍で突いても出来るようなへこみじゃないな」


 たしかに素人の俺が見ても、何かが減り込んで出来たとしか見えない傷跡だった。この世界に来て一月以上になるが、あんな傷になるような攻撃は受けていない。少しだけ記憶を辿っていたが、すぐにサビアに意識を戻した。


 サビアは、猫ちゃんの居る方へ近づきながら、俺達を手招きしていた。


「田中殿、藪に伏せている人たちのことはバレてます」


「ありゃ、バレてるのか」


「此方に猫さんのような亜人がいるように、向こうにも気配察知のスキル持ちがいるようです」


「あはは、当たり前の話か。隊長そういうことなので、皆に出てきてもらいましょうか」


「危険ではないのかね?」


「このまま隠れていると、不信感を抱かれて益々警戒されます。どうやら手練れの護衛のようですね」


「そうか、仕方ないな。車両は隠したまま出てきてもらおう」


「それとあちらには、怪我人がいるようで、薬も無くなっているので治療してほしいということらしいです」


「そうなんだ。サビアに任せていいの?」


「命の危うい者含めて数名いるようです。私だけでは荷が重いです」


「わかった。じゃサビアの助手ということで、一緒に行こうか。猫ちゃんはここで周囲の警戒お願いします。隊長、あの通訳のノーム君貸してください」


「あーい」「わかった」


 相手が商人で恩が売れれば儲けものという考えもあったが、色々と分らないことだらけなので、この世界の人と接触はできるだけしておきたかった。街道を使っていれば当然どこかで接触することは想定していた。誰も使っていない街道が荒れずに存在する理由がない。所々崩れていたりはするが、行政がしっかりしているわけでもないのだから仕方の無いことだ。使うものが手直しして行くのが成り行きというものである。


 我々はグナスと名乗った男に付いて行く。隊列は思ったより長かった。荷車を曳いているトカゲのような生き物は大人しくしている。4頭引きの荷車5台の次にキャビン付きの大型車コーチ2台が挟まれて、さらに後ろに3台荷車が連なっている。一台一台が大きく、荷台が板で囲まれている。屋根は幌みたいだ。荷台を囲っている板は、護衛が持っている盾のような材質で、やはり凸凹としている。トカゲも鎧のようなものを着けていて、魔物からの防御なんだろうか?どんな魔物なんだ。


「盾に興味があるのか?って言ってますよ」


 突然グナスから聞かれたが、ノーム君が通訳してくれた。観察されていたらしい。びっくりだよ。


「盾の材質が知りたいって聞いてくれる?」


 グナスは盾を背中から降ろすと、俺に突き出してきた。自分で見てみろということらしい。手に持った瞬間、ズンとした重みを感じた。背中に背負った状態だと、ほとんど身体を隠してしまうほどの大きさなので、重いのは仕方ないが、これほどとは・・・。こんなものを持って戦えるのか?


「メタルバケスの革で出来てるそうです」


 グナスは此方を見てニヤリと歯を見せる。俺もニヤリと返す。金属のように硬いぞ。これが革だとはとても思えない。表面を凹ませている穴を指でなぞる。親指が入るくらいだろうか。


「ハガネ虫がぶつかってきた穴だそうです」


「むし?虫がこんな穴を?マジか・・・」


 そんな遣り取りをしていると、最後尾の荷車に到着した。グナスの合図で、側面の板が持ち上がる。あぁこれって大型トラックのウイングと同じ構造になってるのか。荷台には数人が横たわっていた。




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