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来るべき世界  作者: うらじろ
第一部 老人異世界へ行く
22/29

22.サロワ村2

 あまり雨が降り続くといったことがない。だから乾燥しているせいで、風呂に入る文化が形成されなかったらしい。井戸はあるが、村にひとつだけだ。水は魔法で出せるので飲み水に困ることはない。なんかズルイよな。俺は水道止められてるんだぞ・・・。問題はその魔法の水を使って、手洗いしてくれれば寄生虫対策になるんだろうけどなぁ。俺が力説しても聞く耳なんかないよなぁ。


「なぁサビア、魔法で除菌て出来ないのか?」


「じょきん?」


 可愛らしい顔を傾げて聞き返すサビア。見蕩れてしまいそうになる。


「あぁそこからか・・・すまん忘れてくれ」


 無理にこちらの文化や習慣を押し付けてもだめなんだろうな。そもそも痩せていることが、いけないことという認識もないからな。関連して病気になったり命を落したりって考えられない。サビアだけでも習慣づけてもらおう。てゆーか、130年も生きてきた人に今更な気もする。


 サビアは怪我を治したお礼にもらった、なにかフワフワした白いものを弄んでいる。毛玉?


「ラビィテールという生物らしい」


「え!それ生きてるのか?」


「私も貰ったよ」


 って猫ちゃんも、ちゃっかり手に入れていた。しかも袋の中に幾つか入ってるらしい。何時の間に・・・。


「すでに死んでいて、これは鉱物なのだそうです」


「えっ!?????なんだって?!生物なのに鉱物ってナニソレ」


 猫ちゃんの袋から一個取り出したが、ふわふわじゃなく固い。固いといっても、カチカチではない。ソフトボールのような感触といえばいいのか、大きさもそんな感じだが、重みはない。だから投げても飛ばない。中が空洞なんだろうか?生きているときは、ふわふわと空中に浮遊していて、死んでしまうと固くなって鉱物になるらしい。何かに利用するのかと思えば、何にもならないそうだ。ボールに使えそうだけど・・・この世界にボール遊びが存在しないから使いみちはないな。日本に持ち帰ってみるか・・・。


「試しに持って帰ろう。なにか役に立つかもしれない」


 こちらの世界に来た本来の目的でもある。お金を稼がなきゃね。それと魔核を売れないかと聞いてみたが、町から商人が来ないと売れないらしい。いつになるかわからないと言われた。この村でも魔物や動物の皮を鞣して売る(素材もね)のだそうだ。今回の魔物の襲撃でたくさんの皮が手に入ったが、鞣すのに時間が掛かりすぎてほとんどがダメになってしまうようだ。皮を剥いだ状態にするのも大変だが、内側の脂肪やらを取り除くのが更に大変、これをしないと腐ってしまう。そんな人手はこの村にない。肉もある程度塩漬けや干し肉にしなければならないが、塩は高価なのと、干す手間も掛かるのだが、皮を鞣すよりも重要なので優先される。


「塩を持ち込めば売れるかもしれんな」


「田中どの、塩はたくさんあるのですか?」


「うん、まぁたくさんあるけど、金がないから買えない」


「高いのですか・・・やはりそうですよね」


「いや、値上がってはいるけど高くはないと思う・・・こちらでは幾らなんだろ?」


「知りません・・・私は買った事がないのです。お金がなくて買えなかったという田中どのと同じなのです」


「え、塩がなくても生きていけるのか?」


「私は生きてます。でも保存食は備蓄しておきたいかなと・・」


 どういうことだろう。塩って昔から生きていくのに重要なものだったって習ったし、歴史上でもそういった塩に纏わる話も多い。なにしろ国が専売してたくらいだ。だから身体は子供・・・いやそれは別の要因だな。調べていくと村人も食用というか、塩漬けに使う塩(保存用)くらいしか買わないらしい。だからどうしても必要ではないということだ。てことは、大量に持ち込んでも意味がないってことか。ざんねん。とりあえず異世界だからってことにしておく。


 お金を稼ぐって難しいなぁ。現代日本でも異世界でも同じなんだなぁ。なかなか昔読んだ小説みたいには出来ないなぁ。ポンプとか紙漉きとかいらなそうだし、作れって言われても原理とか形とか知ってても造れるかっていうと、かなり微妙なんだよねぇ。実際にやってみたら無理でしたってことになりそう。本物を持ち込んで同じものを造ってくださいって通用するのかな・・・。まぁ試してはみるけどね。時間が掛かりそうだ。農業も良くわからないからなぁ。千把扱きくらいなら自分でなんとかなりそうかな。そういう需要があればだけど・・・。この村を見る限りは、周囲の穀物畑なんか放棄されてるぽいからな。どうなってるんだろう?


「ここへ来るときに畑とか見たんだけどさ、荒れてるしなにも作ってないようだったけど、穀物ってどうなってるの?」


「私にはわかりませんけど、たしか麦は作ってたと思いますよ」


「ふーんそうなんだ・・・もう収穫しちゃったのかな」


 その辺は村人に聞いてみたところ、初夏に収穫は終わっていて、税として持っていかれたということだった。持っていかれたって・・・食べるものどうすんだよ。そこらへんも、言葉を濁していたが、どうやら領主には隠れて芋とか作っているんだそうだ。見た目は荒れ果てた土地っぽく見せかけて、実は地中には芋が・・・うむむ、農民は逞しい。麦を税として全部渡してしまえば、徴税も一度で済んでしまう。領主も態々見に来ないらしい。地上に出ていた芋の葉っぱは、この間の魔物が全部踏み潰していったらしい。


「おっちゃん、なんか顔が強張ってるよ」


「あ、あぁ考えることが多すぎるな」


「急いでも何もみつからないよ」


 下手な考え休むに似たりだな。なるように成るか。んーてゆーか、そうやって今まで失敗の人生だったような気もするんだが・・・。だけど金儲けなんて柄じゃないからな。猫ちゃんとのんびり暮らせればそれでいいかな。


「そうだ、サビアはどうするんだ?」


「なにがですか?」


「俺たちは難民を日本に戻すけど、サビアは家に戻って暮らすのかなと思ってさ」


「もう戻って来ないのですか」


「んーそれがな、微妙なんだよな。戻ったら向こうで拘束されるかもしれん」


「拘束?何故そんなことに・・・みんなを助けたのに、何故そうなるのですか」


「たしかにそうなんだけどな、良いことをした、けど勝手なことをしたとも解釈されかねん。それと異世界のことを根掘り葉掘り聞かれて、都合よく利用されるってこともあるかもしれないんだ」


「ここの領主と同じような気がしますね」


「まぁそうなる前に逃げたいとは思ってるけどな、だからサビアが付いてくるなんてことになると、めんどくさいことに巻き込むことになるかもしれん」


 サビアは、ニヤリと口の端を上げて笑った。


「そういうことって表立ってしないですよね?」


「あぁまぁそうだな。大抵裏でこそこそが普通だろうな」


「どちらにしても、私は田中殿の秘密をまだ説明してもらっていません。これでも我慢しているのです。ですから納得できるまで付いていきますよ」


「あぁそうだよな。説明できるのかな俺」




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