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来るべき世界  作者: うらじろ
第一部 老人異世界へ行く
13/29

13.言葉と地震

 二人が落ち着くのを待って、夕食のテーブルに付いた。食卓には、燭台に三本の蝋燭が輝いているが、あまり必要はない。骨のおかげで充分明るいからだ。今は骨の入ったリュックを下ろしているが、それでも明るい。


 この世界での食事としては、特別のものではなくてお客様に対して失礼かもしれませんが、という前置きでテーブルに並べられた料理は、豆のスープと良く判らない肉、そして黒っぽいパンだった。元の世界にいたときよりマシだと、肉が食えるなら文句もないと、思ってしまったのは内緒だ。すでに倒した魔物の肉は食べているし、毒じゃなきゃいいよねって感じでもある。


 そして食べながら会話するのが、良いのか悪いのかマナーなど意に介せず質問をした。


「俺の魔力ってのが、そんなにすごいのか?」


「もちろんですわ」


「見えてるんか?もごもご・・・」


「おっちゃん、行儀悪すぎよ」


「あ、ごめん。腹減ってるし、疑問はあるし・・・つい」


「いまこの部屋は魔力で満たされてますよ。あなたが放出している魔力でね」


「うーん、自分では何も見えてないけど、どんな感じなんやろ」


「そうですねぇ、霧が漂ってるような、でも透明で陽炎みたいな感じですかね。ただ見えているというのは正しくないです。感じていると言ったほうが適切かもしれません」


 俺は右手で空中をかき回すような仕草をしてみた。


「そういうことで動いたりするものではありません」


「ふーむ、放出してるってことは、俺の魔力は減りつつあるってことなのかな」


「減るというより寧ろ増えてるんですけど、今日、初めて魔力を感じたときより分散してるような気がしてはいます。それでも通常より遥かに多いと思いますね」


「ぶんさん?」


「えぇそうなんです。あちらの部屋からもっと大きな、魔力の放出が感じられます」


「さっき待ってた部屋か?あちらには俺たちの荷物があるだけだよな」


 全員でそちらを見つめたが、荷物以外にはなにもなさそうだった。


「宜しければ荷物を見せていただいてもよろしいですか?」


「あぁ構わないよ。大したものは入ってないから」


 食事の喜びも忘れて、急いで食べてしまうと、隣の部屋へ荷物を確認のために移動する。そのときも、猫ちゃんはあまり会話には加わってこなかったので、まだ体調が悪いのかもしれなかった。なんとなく元気がない。


「わたしお花摘みに行ってきますね。シュテッピンさん、お花畑はどこにありますか?」


「サビアと呼んでください。そこのドアの向こうに廊下がありますので、右へ行った突き当りです」


「猫ちゃんお上品な言葉知ってんだな」


 ドアがパタンと閉まって、パタパタ廊下を走っていく音が聞こえた。少女は燭台を手に取り、隣の部屋へ向かう。


「さて、○△B%TX○■×・・・」


「え、なんて?」


「pk&x○△X#C・・・」


「あれ?どうなってんだ。急に言葉がわからなくなった」


 そもそも異世界に来て、日本語でなんの違和感もなく通じていたのが、不思議だったのだが、異世界人である猫ちゃんとは、最初から今の今まで日本語で滞りなく通じていたのだ。猫ちゃんが俺から離れたら突然こうなったなら、原因は猫ちゃんにあるのだろうか?というか、こちらの世界に来るときに、当然言葉が通じなかったらどうしよう・・・なんて日本人に在りがちなことは考えていたわけで、そんなときは猫ちゃんが通訳してくれるんだと、勝手に思い込んでいたわけで・・・そんなアホなことを考えていると、猫ちゃんが戻ってきた。


「あれ、どうしたの?」


「言葉が通じなくなったんだ」


「あ、え?なに?これ通じるようになってるみたいです」


 猫ちゃんは、きょとんと俺たちを交互に見ていた。


「わたし・・・なにもしてないんだけど・・・」


 どうやら猫ちゃんが何もしてなくても、猫ちゃんが翻訳してお互いの言葉を通じるように、調整してるみたいな感じなんだろうと、思った。猫ちゃん特殊能力者だぞ。というわけで、検証実験をしてみたが、間違いなく猫ちゃんが居るときと居ないときで、言葉が通じたり通じなかったりした。距離にして10mくらい離れるとダメみたいだ。


「わぁ!わたしにそんな能力があったなんて、すごーい」


 なんかさすが異世界だと、改めて思った。




「こ、これはなんですか?」


 俺の荷物を調べていた少女が聞いてきた。


「「骨」」


 俺と猫ちゃんが同時に答えた。


「えぇ骨なのは見れば判るのですが、これが魔力を放出しているのです」


 そのとき、ゆったりと横に揺れるのがわかった。


「や、これは!また地震だぞ!!」


 最初はゆっくりと横に、まるで海に浮かんでいるように揺れていた。あぁなんかこれ前に経験したことのある揺れだなと思った。さすがに日本でもこんな振れ幅のある地震は珍しい。あの3.11と同じだった。結構長く揺れたあとガツンと縦にきた。テーブルに置いてあった燭台が倒れる。


 猫ちゃんだけじゃなく、そこにいる全員がテーブルにしがみついて、揺れる地面に気を取られていた。かなり大きな揺れだ。地震慣れしている日本人の俺でさえ、顔が青ざめているに違いない。キッチンの方からは、ガチャン!パリン!ガシャンといった音が聞こえてくるし、この部屋の家具がスローモーションのように倒れて中身をぶちまけている。魔法少女は、腰が抜けたのか、その場にへたり込んで呆けていた。


「テーブルの下に入れ!」


 俺は猫ちゃんの手を取って引っ張り、テーブルの下へ強引に押し込めた。そして少女の手を取ろうとすると、彼女は嫌々と頭を横に振って床に這い蹲った。仕方なく無理やり床を転がして、テーブルの下へと移動させた。骨をしっかりと抱えたまま。


 テーブルは厚みがあって頑丈だったが、揺れで倒れそうになったのを必死で掴んでいた。家具が折り重なるように倒れたあとは、木材が擦れ合う気持ちの悪い音がした。家が壊れるんじゃないかと思ったが、それは無かった。地震が治まっても、魔法少女はガタガタと震えている。猫ちゃんは俺の腰に巻きついている。


「海からどのくらい離れてる?」


 肩を掴んで揺らしながら叫ぶように聞いた。


「え?う み?」


「そう海だ。塩辛い大きなみずたまりだ」


「あ、あぁ知ってるよ、海ね。ここは内陸だから海は遠い」


 さすがに丁寧な口調ではなかった。海が遠いのなら津波の心配はなさそうだ。そのまま夜を過ごすことにした。時々余震で小さく揺れたので、両腕に抱え込むようにして二人を宥めた。なんか役得。



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