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来るべき世界  作者: うらじろ
第一部 老人異世界へ行く
10/29

10.村

 平原といっても、真っ平ではない。高低差は少ないものの起伏があって、高いところからは、遠い山並みが連なっているのが良く見えた。膝丈ほどの草に覆われ素肌を晒していると、皮膚が切れていたりする。これが意外に痛い。紙で指を切ったときみたいだ。猫ちゃんはカラダの面積に対して、布地が少なくて素肌を晒しているが、毛深いので切れないらしい。俺は短パン(七分丈)なので足の彼方此方が切れている。そして痛痒い。年を取ると足にはほとんど毛がないのだ。その代わりなのか、耳から毛が生えてくる。耳毛っていったいなんなんだろう・・・必要なのか?


 そんな平原の起伏に隠れるように、道路のようなものがうねうねと伸びていた。他より平らで、轍がああるが、すでに真ん中の盛り上がりには背の高い草が繁殖している。なんか現代の田舎に来たような錯覚に陥る。田舎でも最近はどこもかしこも舗装されてたりするんだが・・・


 此方の世界へ来ると、身体能力は上がるは、度胸はつくわで、自分の性格がわからなくなる時がある。猫ちゃんが居るとはいえ、どんな奴等がこの道を利用してるかわかったものじゃないのに、平気で道の真ん中を進んでいった。向こうの世界だったら、目立たないように道の端を隠れながら進んでいただろう。人が住んでいて、集落があるなら盗賊だっているに違いない。一応魔物と戦って勝てるほどの力が、証明されたことに調子に乗っているのかもしれない。いつか鼻っ柱が折れる時がきそうだ。それにしても、俺の身体能力はどうなっているのだろう?


 異世界へ来たら、チートな特典が付いてくるというのは、あまりにもご都合的すぎる。俺のはチートでもなんでもなさそうだ。なぜなら俺じゃなくても、誰でも身体能力が上がるはずだからだ。この世界の自然の摂理とでも言えばいいのだろうか・・・重力が少ない月へ行けば、誰でもジャンプ力が上がるのと同じだ。


 遠くに集落の影が薄っすらと見えるようになってきた。猫ちゃんは頻りに鼻を上方に突き出すようにして、匂いを嗅いでいた。


「臭いな・・・」


「すまん。風呂入ってないからな」


「じゃなくて!あっちから臭ってくるのよね」


 そう言いながら集落の方に指を翳す。俺も嗅いでるんだが、特別臭いとは思わない。むしろ綺麗なおいしい空気を楽しんでいる。マイナスイオンなどという物質?気体?存在?そんなものは、この世界にもないはずだが、精神衛生上は良い結果もあるかもしれない。まぁ猫の嗅覚には及ばないので、きっと臭いんだろうな。


「あれだろ?家畜の糞の臭いとか、田舎の香水だよな?」


「うーん近いっちゃ近いんだけど、少し違う臭いが混ざってるような気がする」


 少し警戒レベルをUPして進んでいくと、石積みと木材を織り交ぜた藁葺きらしきものの建物が見えてきた。大きくはない。見えているのは5棟ほどの住居らしきもの、どれも小屋といった感じの小さなものだ。辺りは静まり返っていて、人の姿はおろか小動物の影すら見えない。


 俺は一番近い建物に近寄ると、耳を澄まして小さな物音でも聞き逃さないぞと、建物に耳を向けたが、何も聞こえないので、更に一歩近づいてから声を掛けた。


「こんにちは・・・どなたかいらっしゃいますか?」


 返事はない。申し訳程度の板戸に手を掛けて押してみたが開かない。引いてみると軋み音とともに開いた。かび臭い冷えた空気が押し出されてきた。


「誰もいないな」


「おっちゃん、人の気配はしないよ」


 すべての小屋を確認してみたが、家財道具に至るまで何もなかった。


「捨てられた村みたいだな」


 広場のような空間を挟んで全部で10軒の小屋と、耕された痕跡が雑草に覆われていた。臭い匂いの原因は、魔獣の腐った屍骸のせいだった。この土地には精霊とか妖精はいないらしい。猫ちゃんに依れば、精霊に見放された土地は衰退していくらしい。この村も何かの原因でそういうことになったのだろう。


「第一村人との遭遇は、次の機会だな」


「なにそれ・・・」


 久しぶりに屋根の下で眠れるかと期待していたが、精霊に見放されたような村で眠るのは嫌だと、猫ちゃんの主張で早々に廃村を後にした。


 その後更に3つの村を発見したが、どうやらこの辺り一帯の地域が精霊から見放されているらしかった。


「うーん、方角を間違えたようだなぁ・・・街道を反対に進んでれば良かったんだろうか」


「進んできた距離が半端ないからねぇ、今から引き返すのもねぇ」


「だなぁ・・・このまま進むしかないよなぁ」


 身体能力が向上していても、これだけ野宿が続けばさすがに疲れも半端なくなってきている。こちらへ来てからもうすでに2週間になろうとしていて、持ってきた食料(燻製)が枯渇していた。途中で倒した魔物で、食べられそうなものに手を付け始めていた。野生の動物も狩りながら進んでいた。妖精に貰った袋には重宝していた。ただ、向こうから持ってきた調味料が底をついたので、味が淡白すぎた。野菜代わりの野草はふんだんにあったが。日本人としては、米が食べたくてしかたなかった。なんか体臭が相当臭くなってそうな気がした。水は割りと豊富に手に入るので、困ったことは無いが、体を洗うほどは持っていない。水場で水浴びするのが関の山だな。それを沸かして湯に浸かるなんて面倒は無理だ。入れ物や燃料の調達ができない。




 そして更に野宿をして翌日、一時間ほど歩くと街道が二股に分かれていた。分かれ道に大きな木が目印のように立っている。


「だよなぁ・・・いつまでも一本道なんて有り得んよなぁ。さてどちらに行こうか?」


 猫ちゃんは鼻をヒクヒクさせているが、匂いではわからんやろ?轍の削れ具合はどちらも同じようにしか見えない。しかも長い間使われていなさそうで、草がぼうぼうに成りつつある。だんだん酷くなってないか?


「おっちゃん・・・」


「えっ?どうした」


 そう答えたと同時に、ブヒュっという風きり音と共に、火炎の塊が足元を掠って行った。火炎は地面に当たると、ボスッという音を立て土煙を上げて消えた。直撃していたら火傷だけでは済まなそうだった。咄嗟に身を低くして火炎の飛んできた方向を見ると、第二弾が此方へ向かってきていた。顔面直撃コースだったので、右に倒れこんで避けたが、更にもう一発が倒れたところへ向かっていて、避け切れそうになかった。


「おっちゃん!」


 猫ちゃんの悲痛な叫びが聞こえた。



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