1.日常の亜人
どうやら世界の人口は減り続けているらしい。
このまま減り続けると、いろいろと困ったことになるんだとか・・・
頭の悪い俺なんかは、増え続けるよりいいんじゃね、なんて思ったりしている。
今の世の中の格差も無くなるかもしれないし(なんの根拠もない)、争いも減るんじゃなかろうか。まぁあれだよ、密集してるだけで火種になるしね。
人口が減少していくと、二度と増えないで人類は衰退していくなんて言うやつもいる。なんで増えないのかちゃんと説明してほしいもんだ。そもそも、少ない人口から増えて今のようになったんだろ?
人口が減るということは、全世代が均等に減るわけではなく、子供が減って老人が増えるってことなんだ。要するに働く人がどんどん減っていくわけだ。経済は成り立たなくなり、治安は悪くなる。だから移民なんてことを考えるやつ等もいるわけさ。それで更に治安が悪くなり・・・頭の悪い俺にはこのくらいしか思いつかないんで、あとは自分で考えてよ。
あまり人と接触しないで、家に閉じこもっていたら、世の中恐ろしいことになっていたんだ。
新聞は随分昔に不信で、読まなかったし、テレビもつまらなくなって見てなかったっていうか、変なのが受信料とか五月蝿くくるので、捨ててやった。
ほとんど世間からは隔絶したと言っていい。いや、大袈裟かな・・・。
家から一歩出れば、道行く人と擦れ違うはずだっ・・・あれマジで人口減ってきたのか?
近くのスーパーも人が疎らで、走っている車も多くない。
いくら引き篭もっていたとはいえ、こんな急に人口減らないだろ。
とりあえず、日持ちのする食料を買いだめして、その支払いのときに驚いた。めっちゃ高くなってる。
まずい!こんなバカみたいに高いと、俺は生活できなくなるのが確実だ。しかし背に腹は代えられない。仕方なく買ってしまったものを抱えて、帰宅することにした。
帰り道、路上で喧嘩している奴等がいた。
車が何かを撥ねたようだ。
車から5mほど離れたところに、黒っぽい塊が落ちていて、赤いシミが広がっていた。
大きさから子供だろうなと思った。
かわいそうに・・・
近づいて行くと、喧嘩している声が断片的に聞こえてきた。
『あんなの人間じゃないんだからいいだろ』
『かわいそうだろ!』
なんか意味がわからん・・・見たくないなと思いつつ、撥ねられた塊を近くで見ると、頭があり手足があって服を着ているし、人間だろ?と思ったが、縦横の比率が若干おかしい。随分な肥満体型のようだ。
人通りの少なかったのにも関わらず、少しずつ野次馬が集まってきていた。
『あれ人間じゃないぜ』
『ほんとだ、初めて実物見た』
なんだなんだ・・・どういうことだ。
やっぱり俺は世間から孤立していたのか・・・
まぁコミュ障じゃないので、恥を忍んで聞いてみた。最近は俺みたいな情弱が増えているらしく、あまり驚かれなかった。
少子高齢に伴って、異常分娩が増えていたらしい。というか、最初は隠されてきたのだそうだ。
奇形というほどではなく、ただ不細工な赤ちゃん(たいてい赤ちゃんは不細工なものだが)が生まれるようになったらしい。当然奇形じゃないからそのまま育てることになるわけで、その不細工も育てばまともになっていくんだろうと思われていた。赤ちゃんなんて皺くちゃで猿みたいだしね。ただ若干毛深いんだそうだ。(当社比)それと横幅?(当社比)なんでも通常の1.5倍の胴回りで、産むときにかなり危険が伴うらしい。あそこが裂けちゃう(通常でも実際裂けることもあるらしい)。事前に帝王切開に切り替えることもあったらしい。
そんなこんなで、最初は人間として扱われていたわけだが、どうもそうじゃないってことになってきたらしい。
最初に生まれた子が、15年後に成長が止まった。背が伸びないし、髭が尋常じゃなく生えてきた。女の子も同様。体格が樽のようにずんぐりして、乱暴な性格が顕著になってきた。隠れて酒を飲むようになった。政府はなにも発表していないが、人間じゃないということに成りつつあるらしい。
えっ?それってドワーフじゃないの?
そのあと、役所の車が来て死体を積み込むと、なにも聞かずに立ち去っていった。もちろん警察なんか来なかったし、撥ねた車もそのままいなくなった。
なんだかおかしな世の中になっているらしい。これも少子化の影響だろうか。
俺は物価の高騰のほうが気になっていたので、深く考えるのはやめた。なんでもかんでも『おかしな世の中』で片付けられないんだけど、頭が悪いんで仕方が無い。