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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
分室推理合戦
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第2話

「やあ遅くなって済まない」


 そしてそんなタイミングでこの人が姿を現す。ぼさぼさ頭のメガネ野郎、影宮識也の登場だ。


「お疲れ様です室長。連絡がなかったので心配していましたが、何か問題でも?」


「いや、そんな大それたものじゃないよ。気にしないで」


「痴情のもつれなら、誰も気にしないぞ」


「あなたは黙ってなさい」


「一体何の話だか分からないけど、結崎君のことだ。聞かないでおくよ」


「おいおいおい、俺を片手であしらおうなんていい度胸だな?」


「両手で君に触れていいのなら、この体ごと喜んで差し出すよ?」


「周防やばいぞ、この人は両刀だ」


「お、おう、そうだぞ。識也さんはすごいんだぞ?」


 話分ってないなこいつ。そして室長の返し、やはり周防とは違う。


「なんにせよ遅れて申し訳ない。まぁ僕がいたところで何の戦力にもならないだろうけど」


「そんなことはありません。最終的な処理は室長が目を通さなければ成立しませんので」


「君塚さんはいい秘書になれるよ」


 あーやの事務能力は、すでにこの分室すべてに通じている。こういった形式的な手続きの処理はやはり目を見張るものがある。半面、アドリブにやや弱いところはあるが。


「ですが一息つくのも大切です。少し休憩しましょう。室長も何か飲みますか? 冷たい緑茶とかどうでしょう? あとの二人はどうしますか?」


「ありがとう。できれば常温がいいかな」


「俺は炭酸」


「アイスコーヒーで」


「わかりました。では用意しますのでお待ちください」


 室長とすれ違い給湯所に向かったあーやは、慣れた手つきでそれぞれの飲み物を準備していく。室長は手を洗った後、自分の席へと座った。


「何か今日は面白いことでもあったかな?」


「そうだ、結崎。室長に問題を出してもらうってのはどうだ?」


「問題? あぁありがとう君塚さん」


 あーやは周防には炭酸、俺にはアイスコーヒー、室長には常温の緑茶。自分にはアイスティーを淹れて、それぞれの机に運んでいく。


「まためんどくさい周防の駄々だ」


「おい逃げんのかよ」


 なんだその安い挑発は。


「知恵比べの問題か。そうだね……ならこんなのはどうだい? 『僕はさっきまでどこにいたでしょうか?』とか」


 なんだと?


「え、室長がここに来る前に何をしてたかってことっすか?」


「まぁそこまで分かれば面白いけど、とりあえずどこにいたのか推理してご覧。もちろん僕はHRが終わってから校舎の外には出ていないから場所は校舎内だ。もっと言うとそうだね、特別A棟のどこかに寄ってきた。一か所だけね。さて、僕はどこに寄ってきたでしょうか?」


 笑顔でいながら、このもじゃもじゃメガネはとんでもないことを言い始めた。たった今出会った人間が今までどこにいたのかを推理する。そんなもの荒唐無稽だと言いたくなるが、それこそが知恵の見せ所、ということか。


 というか、これさっきの俺がやったのと何も変わらないんだけど。


「それって、推理で分かるんすか?」


「どうだろう。まぁフェルミ推定みたいなもので、色々と推察してみてよ」


「つまりは、室長の『入室から今までの様子を手掛かりとして、推理する』ということでうですね」


 いつの間にかにあーやもやる気のスタイルだ。机の上に紙とペンを用意している。


「特別A棟ならば候補は理科室・音楽室・美術室・技術室・家庭科室辺りっすか?」


「そうだね。まぁABCのくくりまでは不問にしようか」


 大量の人数を収納する学園の施設は多岐にわたる。ざっくり表すと、職員室や生徒会室、分室がある本棟が一棟。各教室がある教室棟が三棟。そしてさらに畜産科の農場やら、水産科の巨大プールに養殖用の水槽など、もう把握しきれないほどだ。


 その中で特別棟は技能教科や専門学科を学ぶための場所で、A~Eまでの五棟存在する。A棟ならば周防が言った通り、普通科がよく使う棟である。もちろん理科室と言ってもABCでそれぞれ別々にある。室長が言ったのは、その違いだ。


「時間は十分。後出しじゃんけんにならないように答えは先に書こうか。それぞれが回答を紙に書いて見えないように伏せて、それで順番に推理を述べる」


「分かりました」


「よし、ぜってー当てて見せますよ」


 室長の言葉に二人はやる気を見せる。


「結崎君は?」


「あんたに乗せられるのは面白くない」


「とか言いつつやる気ではいるんだね」


「題材としては面白そうだ」


「楽しみだね。それじゃあシンキングタイムだ」


 室長の言葉でそれぞれが独自の方法で推理を始めた。あーやは情報を紙に書いて整理していた。周防は「入ってきたときは確か……」と椅子をくるくる回転させながらブツブツ呟いている。


 さて、俺も情報を整理するか。時系列で追うと、まず室長が部屋に入ったとき、少し汗をかいていた。全館空調の真夏でも快適に過ごせる学園内で、汗をかくことがあるのか?


Q1 なぜ室長は汗をかいていたのか?


 次にあーやが飲み物を聞いた時、冷たい物を避けた。真夏のこの時期、いくら校内が全館空調で涼しいとはいえ、大抵は冷たい物を欲する。いつもの様子を見ると、冷たい飲み物が苦手という様子も特にない。


Q2 なぜ冷たい飲み物を避けたのか?


 そしてもう一つ、先ほど席に着く前に室長は手を洗った。ここが俺にとって最大の違和感。


Q3 室長が手を洗った謎。

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