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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
魅惑のサマーバケーション
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7話

「西城さんやっときたの!? もうほんと遅いから来ないかと思ったじゃなーい」


 そして民恵の後ろから、いかにも嫌味を込めた口調の人物が出てきた。挑戦的で過激な赤いAラインVネックの胸元を主張するロングドレスの人物。気付かれないように巧妙にしているが、パッドで相当盛っているのが分かった。


「お待たせして申し訳ありませんSAYURIさん」


 遅いご到着と言っても迎えの時間を指定したのはそっちである。


「いいのよいいのよー。来てくれればそれで良かったし。ね、晃輝?」


 SAYURIの声に、群衆の中から一人の男が姿を現す。一九〇に迫るほどの巨体、体重は九〇オーバー。着込んでいるスーツの上からでも山のように膨れ上がった筋肉が見え、その両椀はSAYURIの胴ほどはあるかというほどである。剃り込みの入った坊主頭に不敵な笑み。文字通りの大男、それこそ人種が違うのではないかと思えるほどの肉体の持ち主が現れた。


「紹介するわ。こちらは晃輝、ボクシングの世界王者。三回の防衛戦で二回相手を病院送りにしてる人を殴るプロよ」


「どうも初めまして」


「初めまして、西城てッ!?」


 薄ら笑いを浮かべる彰人に、一瞬たじろいだ。浮かべる薄ら笑いにではない。


 晃輝が何食わぬ顔で民恵の腰に手を回し、胸を揉みしだいていたからだ。


「…………」


 必死に言葉を捜すが、それは形にならない。本来訴えを起こすべき民恵は、居心地悪そうに愛想笑いを浮かべている。パートナーであるはずの芝は現実から目をそらすように顔を背けていた。


 酷く気持ちの悪い光景だった。


「あの、一体何をされているんですか?」


 その空気を流斗が破る。先ほどと同様、素朴な皮をかぶった、無垢な少年だ。


「あ? 何って、見てわかんだろうが」


 晃輝の態度がガラリと変わる。語気を強め、獰猛な野獣のように威嚇する。それでいて、手は民恵の豊満な胸をまさぐり続けている。


「いえ、その、分からないというか、なんでその……そんな事をされているんですか?」


「民恵の胸がでけぇからに決まってるだろ。男なら巨乳を揉みしだきたくなるだろ? 手前にはわかんねえのか?」


「でもそんな突然、しかも民恵さんは……」


「てかよ、手前誰だよ?」


 民恵から手を離し、晃輝は流斗に近づく。目と鼻の先、本当に鼻先がくっつきそうなところまで接近した。


「じ、自分は西城さんの連れで来た、結崎流斗……です」


「あ~はいはい、了解了解。そういうことね、はいはい。そうか、手前がそうか。だったら残念だなぁ。本当に残念だよお前」


 晃輝は天に懇願するように手を広げるオーバーリアクションをする。呆気に取られる周囲を尻目に、高笑いを始める。


「だって今日、お前は男としてのプライドを全て失うんだからな」


 クルッと反転した晃紀はこちらに向き直り、


「天里ちゃん、俺と今夜一緒に寝ない?」


「え……?」


「だから、今夜ここに部屋取ってあるからさ。そこで二人っきりで過ごそうよ。もう分からない歳でもないだろ?」


「突然、一体何を言って……」


「あれ、もしかして天里ちゃん知らなかったの? このパーティーに来てる子は、皆俺と寝てるんだよ? セフレってやつ? あれ、もしかして嫌なの?」


「そんなの」


「嫌なら良いよ。ただ、それなりの物を払ってもらうけどね。例えばそう、仕事とか?」


「ッ!?」


「最近売り出しているみたいだけど、これから先を長い目で考えたら、もっといろんな分野の仕事を経験しても良いと思うよ? 今までやった事のない、濡れ場とか? まさかキスはしたことあるよね?」


 思考よりも先に、晃輝が質問を重ねる。


 自分史史上、最も理不尽な問いをぶつけられていることだけは理解できた。


「さぁほら」


 伸ばしてきた晃輝の手を反射的に避ける。


「やめてください!」


 その右手は、流斗が間に入って払いのけた。


「あ?」


 晃輝の目が一瞬にして冷める。


「こんなことが許され――グッ!」


「結崎ッ!?」


 流斗の顔面に、払いのけた晃輝の右手が躊躇なく叩き込まれた。


「邪魔、お前」


 吹き出る血。よろけた流斗の体に更に三発、目にも留まらぬ重い拳が叩き込まれる。腹部を押さえて悶絶する流斗は、前のめりに倒れた。


――手加減も何もない拳を素人に?


――結崎が何の抵抗もできない?


 驚愕させたのは主に後者だった。勝てはしないまでも、多少やりあえるはず。そう心の中で思っていなかったわけではない。過大評価と言えない判断だったはず。


 蓋を開ければ秒殺。何の均衡も出来ずに流斗は床を舐めた。


 理解した瞬間、背筋が凍り、足が震えた。


 この場で自分を案じ、助けを請える相手はいない。


「あ~あ、やっちゃった。どうするのこれ?」


「いつも通り適当に病院ぶち込めば良いだろ? それとも本気で処理するか? おっと天里ちゃん、動くんじゃねえ」


 流斗に駆け寄ろうとするが、間に晃輝が立ち塞がる。


「あなたたち……」


「嫌になった? でもこの世界はこういうものだよ。力が全て、強いやつが勝つに決まってる。そして俺は最強なの。それに逆らったらどうなるか、教えてやったらどうだ彰人?」


「……」


 晃輝の問いかけに、後ろに控えていた彰人は口を開かない。


「こいつは元々モデルをやってたんだが、俺に逆らって今の様だ。干してやってよかったんだが、こいつがどうしてもって泣きつくからSAYURIのマネージャーとして残ってる訳。なぁ彰人?」


 彰人はなおも目を瞑り、晃輝の言葉を聞き流す。決して逆らう素振りは見せない。


「天里ちゃん……」


 民恵が怯えた表情を見せる。天里の身を案じている。だが自分にはどうすることもできない無力感がにじみ出ていた。ただ、下手に抵抗しないでほしい、という思いだけだ。


「さて天里ちゃん、お待ちかねの時間だ」


 近づいてくる晃輝に対して、引くことが出来なかった。足が動かず、言うことを聞かない。気を抜けば奥歯がガタガタと言い始める。


「こんなつまらねぇ野郎なんて忘れちまうくらいの快楽に、俺が溺れさせて」


 晃輝の手が顎に触れる。

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