6話
二人はそこからタクシーに乗り込み、虎穴であるエレウテリオスホテルへと向かった。毎年五つ星として評される最上級のホテルであり、芸能界の御用達でもある。まさにSAYURIがパーティーを開く場所として相応しい場所だ。
ロータリーで降りた二人は、受付でSAYURIからの招待状を提示した。するとホテルマンが素早く対応して、二人を五十階のパーティールームへと案内する。会場の手前の更衣室でドレスアップし、二人は入り口の前で待ち合わせた。
今の姿はホワイトのチュールドレスに黒のボレロ、ドレスの腰部分にはコルセットのように少し大きめのリボンがあしらわれており、美しさと可愛らしさが見事に調和している。髪を後ろでアップにまとめ、肌の露出は少なく、しかし華やかさがしっかりと表現されている。
「素晴らしい」
流斗が賞賛の声を上げた。
「あ、ありがと」
「何を恥ずかしがってる? 見られるのが仕事だろ?」
「あんたが褒めるなんて似合わないことするからでしょ!」
仕事上、確かに自分のスタイルに一定の自信を持っている。ただそれは自信であり、自慢するほどではなく、ましてや流斗の前では何をやっても馬鹿にされるという意識があった。
「良いものは褒める。何もおかしく無いだろう。美しさ、という芸術に関することならば、なおさら感想を口にせざるを得ない」
こちらが褒めるところは謙虚になり、逆に謙虚になるところを絶賛してくる。相変わらず流斗とは噛み合わない。
「じゃあ行くわよ!」
これ以上時間を使っていては手綱が握りきれないと感じ、先に会場に入ろうとするが、流斗が先に動き扉を開いた。
「レディに扉を開かせる訳に行かないな」
「いいから行くわよ!」
自分でもダメだぁ、と思いつつも怒りながら会場に入っていった。
会場は中規模のボールルームで、中央に長いテーブルが縦に二つ並び、その左右に三つずつ円卓のテーブルが配置されていた。椅子はなく、どうやら立食式で行われるようだ。
「あ、天里ちゃ~ん!」
会場入りすると、民恵が小さく手を振りながら寄ってきた。民恵は豊満な胸に似合うペールグリーンのティアードドレスを身に纏っていた。
「民恵さん、遅くなりました」
「まだ時間まであるし大丈夫よ~」
思わず笑みが零れる。思えばここに来るまでずっと緊張していたのだ。
「それであなたが結崎流斗君?」
「はい。初めまして、結崎流斗です。本日はお招きいただきありがとうございました」
「初めまして、私は恩田民恵です。今日は大変かもしれないけど、頑張ってね。天里ちゃんも、今日は我慢だね」
民恵の言葉に苦笑いしか起きない。
「あ! こっちも紹介するね。私のパートナーの芝悠輝君」
民恵の後ろから一人の青年が遅れてやってくる。中肉中背に柔和な笑み、どこかなよっとした印象を受ける青年は、口元だけ笑った笑みを浮かべていた。
「初めまして、芝です。今日はよろしくね」
「よろしくお願いします」
男同士、流斗が差し出された手に受け応える。




