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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
魅惑のサマーバケーション
86/131

1話

 幾度となくたかれる眩いカメラのフラッシュ。キャノンeos 5d、レンズはマークⅢAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIを使用しているカメラマンは、被写体である少女の動きに合わせながらせわしなくシャッターを切る。被写体の少女――西城天里はまだデビューしたての現役高校生でありながら、玄人顔負けの自然な表情、仕草をそのカメラの前で表していた。


 今現在行われているのは女性向けファッション誌「ネオン」の表紙撮影である。中高生のおよそ八割が購読しているとも言われ、常にトレンドを先取りしてファッション界を牽引している雑誌である。


 その雑誌の表紙を飾る。それは今中高生の間で確固たる人気を保持している事である。上京したての田舎娘という揶揄はもはやなくなり、今の天里はモデル業界で確固たる地位を築いていた。


 文句のつけようのない整った容姿、まだ成長の余地のあるプロポーションに清楚感溢れる艶やかな黒髪。そして本番でも硬くならずに自然なポージングが出来る度胸のよさ。天里自身この仕事を天職だと感じており、激烈な競争争いにも負けるつもりはなかった。


 表紙の撮影が終了し、今度は巻頭グラビアの撮影の着替えのため、少しの休憩が入った。案内された休憩スペースには今月の「ネオン」に載るモデル仲間が数人おり、雑談をしながら順番を待っていた。


「天里ちゃんお疲れ様」


 最初に迎え入れてくれたのは自然なウェーブのかかった栗毛の女性――恩田民恵だった。少し垂れ気味の目、健康的な調和の取れた少しふっくらとした四肢に誰もがうらやむ魅惑のわがままボディ。纏う雰囲気はどこかやわらかく、見ているだけで癒されそうである。


 現役大学生モデルである民恵は年齢もそうであるが、モデル業だけでなく私生活でも天里の先輩に当たる。田舎からの上京、通学。そしてモデル業との両立。初めての仕事を一緒に行った経緯から、民恵とは一番長く接している。その民恵から貰ったアドバイスは数知れず、嫉妬が渦巻くモデル業界において天里が唯一心を開いている相手であった。


「お疲れ様です。民恵さんはこれからですか?」


 差し出されたオレンジジュースを受け取る。


「もうちょっとあとだけどね~。もしかしたら巻頭の天里ちゃんの方が早いかも」


「それならスタジオ入りが少し早いんじゃないですか?」


「天里ちゃんのお仕事が見たかったからきたのよ~」


「あ、ありがとうございます」


 民恵の甘い言葉がお世辞でもなく純粋な感情から来る言葉だと知っているだけに、逆に天里の方が恥ずかしくなってしまった。


「でも夏休み前から忙しいみたいだけど、ちゃんと休んでるの?」


 売れていると言っても、夏休み前までの天里の仕事は読者モデルのワンランク上の立ち位置でしかなかった。しかしここ最近はCMのオファーや広告などの出演本数が増え、今回は以前から度々掲載されていた「ネオン」の表紙に抜擢される事になった。


「確かにちょっと大変な時もあるけど、今頑張らないといけないって思ってるから。これは自分の決めたことだし、途中で投げ出すわけにはいかないの。それに……」


「それに?」


「ううん、なんでもない。とにかく、今は頑張らないと!」


 一瞬頭を過ぎったのはある人物の顔だった。天里の仕事が増える要因にもなった人物。もしここで自分が根を上げたら絶対に馬鹿にされる、そんな事は絶対に認められない。天里の意気込みはその言葉通り、負けず嫌いの一言に尽きる。


 あの人を小馬鹿にしたようなふざけた男に、笑われる訳にはいかない。


「あら西城さん、もう撮影は終わったの?」


 芝居がかったあまりいい印象を受けない聞きなれた声に、天里は一瞬に苦い顔をした。


「お疲れ様ですSAYURIさん」


 しかしそれを悟らせることなく、天里はその相手に挨拶を返す。


 SAYURIは今最も活躍している女性モデルであり、「ネオン」を筆頭に現在の中高生のファッションの第一人者としてその名を広めている。SAYURIのファッションを真似る女性をSAYURISTと呼ぶなど、ファッション業界に与えた影響は計り知れない。「ネオン」表紙掲載回数歴代一位であり、今年に限ってもすでに三回はSAYURIが表紙を飾っている。


 そんなファッション界の中心人物は、しかし天里が最も顔を合わせたくない人物でもあった。

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