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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、仕掛ける
82/131

82話

「周防……成美さんだ」


 新聞部に所属し、ギルドにも所属し、この一週間俺を監視し続けた張本人。


 そして、分室の二重スパイ。


「馬鹿な……有り得ない! これは完全にこちら側の人間だ! 貴様らに寝返るなど、貴様らの仲間になどなる可能性など絶対に――」


「遼一、絶対なんて言葉は、この世にはないんだよ。集会前日の会話を思い出そう。僕は結崎君にこう言ったはずだ。『絶対に周防成美は信用するな』ってね」


 最後の仕上げ、支倉が一番信頼していたはずの成美さんの裏切り。最悪相打ちに持ち込める、最大の切り札。新聞部として噂は広めやすく、何よりギルドの一員としてあーやと関わりを持っていた。この計画の中で、ほぼ全ての人間に接触できる立場にいた。


「た、確かにこいつならすべてを把握している! だが、そうだとしてもこいつにそんな時間はなかった! 貴様との会話は全て記録しているし、それ以外でも俺が全て――」


「時間なんて、作ろうと思えばいつでも作れるんだよ?」


「なッ!?」


 再三、支倉は俺の言葉に息を詰まらせた。成美さんの声を模した、俺の言葉に。


「音声だけなんて信用できないんだよ。だからこんな手に引っかかるんだ」


 本来俺を監視しているはずの時間、それを使って成美さんは情報伝達のために秘密裏に動いていた。その間、俺は自分と成美さんの声を使い分け、器用でも惨めな一人芝居をしていた訳だ。


「だ、だが! それが可能だとしても! こいつが俺を裏切れるわけが無い! 成美! 孤児だった貴様に、目をかけてやったのを忘れたのか!?」


 支倉の激高に、成美さんは身を震わせた。この二人の関係は主と従者と聞いていたが、取り返しのつかないこの状況になってもなお、その感覚が拭えないのだろう。


 そしてその成美さんを庇うように、一人の男が立ち塞がった。


「雅紀ッ!」


「悪いけど、全部聞かせてもらったぜ支倉さん。あんた、いやあんたら、人の妹になんてことしてくれてたんだよ」


 支倉を睨み付ける周防の硬く握った拳は、震えていた。


「確かにあんたらには恩があるさ。でも、なんでこいつだけがそんなことに巻き込まれてるんだよ。なんで、そんな汚れた仕事をやらなきゃならないんだよ。そんなことのために、あんたらは俺たちを育ててくれたのかよ!」


 兄である雅紀は、妹の成美さんがギルドに関わっている事を知らなかった。それを、成美さんの動向に気付いた室長が、雅紀に指摘したのだ。そこから雅紀が成美さんを問い詰め、全てを吐かせた。自分が今の立場を続けなければ、雅紀ともども援助を打ち切ると脅されていたことを。


 そして二人が和解した去年の冬頃から、成美さんの二重スパイが始まったのだ。


「すぐにあんたをぶん殴りたかった。でも、それじゃあ俺たち二人が不幸になるだけだと影宮さんに止められた。だから待った。待って待って待って……ようやくこの時が来た」


 周防が一歩、支倉に近づく。それに応じて、臆した支倉が一歩下がる。かつて立場は逆だった。養う側と、養われる側。そこには乗り越えられない絶対的な壁があった。


「この時だと!? いいのか、ここで俺を殴ってみろ、親父に言ってお前ら兄妹を退学にしてやる。それだけじゃない、孤児院からも追放して、社会的に抹殺してや……」


「残念ながら、そいつは無理だ。支倉真一とはもう話がついてる。奴はこの件に一切関与しない」


「ふ、ふざけるな! そんなことあるわけない! 親父が俺を見捨てるわけが!」


「忘れたのか? 俺は一年ほど前まで、その親父の同僚だったんだぞ? 確認したければ確認すれば良い。もっとも、奴がお前の電話に出るとは思わないがな」


「そんな……そんな馬鹿な……」


 切り札が不発に終わり、支倉は部屋の壁の傍で膝から崩れ落ちた。


「今までお前は、全部思い通りに過ごしてきたんだろう。親という権力に物を言わせ、ギルドの長としてこの学園の支配者になったつもりなんだろう」


 周防の前で震えている支倉に、この俺の声が届いているかは分からない。


「だがな。今回は運と、そして相手が悪かった。なぁ支倉、お前には見えているか?」


 それでも、俺はこの言葉を言わせてもらおう。


「これが、お前に見せてやる真実げんじつだ」


 振り上げた周防の拳が、支倉の顔面に叩き込まれた。

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