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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、探る
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8話

「それってつまり、あれか? 学校側の尻拭いをここがしているって事か?」


「学校側が本来やるべき仕事をやっていない、と言う点ではそういうことだね」


 学生が抱える問題とは学校生活で発生する問題が殆どだろう。そして学校側、教師には生活指導と言う学生の生活態度や行動を指導する義務があるのは、流石の俺も知っている。


 だがこの学園の教師は義務を全うする気が無い。「お前ら高校生なんだから、自分たちのケツくらい自分たちで拭けよ?」と言わんがばかりの暴挙だ。


 道理で元ヤン朱乃が悠々と教師が出来るわけである。ブラックなのはこの組織ではない。この学園こそが、とんだブラックな組織なのだ。もう真っ黒すぎて一寸先も見えやしない。まぁつい半年前まで、リアルな裏家業に手を染めていたのは何を隠そう俺自身だが。


 ということはつまり、ここは学生たちからしてもパシリみたいな組織であり、また学園からしても、勝手に問題を解決してくれる体の良い組織と言うことになるのか。


「帰っていいか?」


「その気持ちは分かるけど、あとで先生に何か言われない?」


 確実に言われる。下手しなくても、今夜ビール片手に絡み酒が始まるヴィジョンが一瞬で浮かぶ。何が面倒かって、散々絡んだ挙句勝手に寝始めて、俺がベッドまで運ぶ羽目になる点と、翌朝あっちが記憶無くしてるって言う点。二日酔いをしないタイプなので「ん、昨日の夜なんかあったか?」と真顔で言われ、今度は素面で同じ内容をネチネチと朝の食卓で垂れ流すのだから堪らない。


 ……何で俺がこんなことしなくちゃならないんだよ。そりゃ友達はいないけど、それなりにひっそりと生活してただけじゃねえか。ボッチのどこが悪いんだよクソが。


「そうだね。じゃあ一つ提案があるんだけど」


 進退を決めかねている俺に見かねたのか、室長が言う。


「ここは誰でも一員になれるって言うわけではなく、どんなものかも分からない問題に対処する能力に優れていると認められない限り、入ることはできない。そこで僕たちは新たに入ろうとする人に、一週間の研修期間を設けている。その間に三人から推薦を貰えれば、晴れて一員に任命されるというシステムなんだ」


「それは大層なシステムだな」


 率直な感想を述べる。ただし、それ以上の明言は避けることにした。


「そこで、とりあえず一週間だけやってみるというのはどうだろう? その期間で君にも、もっとここを知ってもらい、後日改めて加入の意志を確認する。もちろん君が一員として相応しくないと判断されればそこまでだけど、一応やりましたという体裁は保てるよ」


「ならあんたの方で、結崎流斗は使い物にならないほどのクズでした、って報告してくれ」


 分室の決定ならば朱乃も文句は言うまい。


 だが、影宮室長はそこでもまた苦笑いを浮かべた。


「ごめん、それはできないよ」


「虚偽の報告はできないってか?」


「いやそうじゃないよ」


 そこで影宮室長は手を組んで肘を机の上に乗せる。どこぞの司令官のようなポーズだ。


「流石に僕もこの分室の室長をやるだけあって、それなりに人を見る目に長けているとの自負がある。それに、君はあの先生が推薦してきた生徒だ」


「何を勘違いしているか知らないが、あいつが俺をここに連れて来たのはプラプラ 生活してたからであって、あいつが推薦したってのも身内贔屓だ。俺にそこまでの潜在能――」


「ミネルヴァの梟は夜に飛ぶ……だったかな?」


「……何だそれ?」


「凄いね、ここまで唐突に出た言葉に対して、まったく表情を崩さず対応するなんて」


 ただ首をかしげただけの俺に、室長は満足気に笑みを向ける。


「でも逆だよ、このフレーズは意外に有名でね。あ、もちろん法哲学の方じゃないよ」


「…………」


「そしてすぐさま状況を把握して沈黙に移行。下手に喋ると危ないと思ったね?」


 何なんだこいつは? 目の前でニヤニヤと笑っている男に心の中で舌打ちをする。ただの分室をまとめる学生、なわけではない事はこのやり取りで十分分かる。言葉には自信に裏づけされた力が乗っていた。と言うか、その言葉を何故知っている。当てずっぽうで出てくるにしては、絶対にありえない言葉だ。


 つまりここで否定したとしても、室長は別ルートで既に確証を得ているということだ。下手に動くと、これからの主導権を握られかねない。

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