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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、仕掛ける
76/131

76話

《一学期は運動部、文化部ともに良い成績を残し皆様にとってもとても充実された学生生活だったと思います》


 終業式、締めの校長の挨拶は無駄にダラダラとした退屈なものだった。五千人の生徒を前にした光景は有名政治家の講演を思わせるが、一方で生徒たちからは傾聴の熱意は殆ど感じられない。暑いんだからはよ終われ、という雰囲気が充満する時間だった。


《勉学やその他の活動にも精力的に取り組んでいき、夏休みといえど清い学生生活を送っていただきたいと思います》


 はたしてお前の身は清いのか? と質問したくなる狸顔の校長は、一礼したあと壇上から降りていった。


《それでは閉式の言葉》


 生徒会役員のアナウンスを聞き、生徒の少なくない人数が深くため息をついた。


《結崎流斗》


 しかし、そのため息はすぐにどよめきに変わる。


 それを横目に、俺は舞台袖から聴衆の前に姿を現す。


 その俺を見て、どよめきは大きく膨れ上がった。


《え~何から話そうか》


 教壇に手をつき、声をマイクで通しながら俺は五千人の生徒をぐるりと見渡す。突然のことで混乱しているのか、ざわざわとするだけで罵声を浴びせるような輩はまだいなかった。


《まずお前らはこう思ってるはずだ。『何であいつがそこにいる? よりにもよってあいつが?』ってな》


 ようやく終わると思った終業式、その最後に登場したのが噂の結崎流斗だ。


《この一週間、何が起こってたかはもう話すまでもないだろう。全く、ひでぇことをしてくれたもんだよ。これが人間のやることかってくらいにな。俺はお前たちを舐めていた。学生と思って、たかをくくっていた》


 イジメを具体的に上げればキリが無く、正直俺でなければもう不登校どころの話ではなくなっていただろう。


《だけど今、俺は相当まいってる。自分が正常な精神をしているとは思わないが、この状況にもはや笑いしか沸いてこない。それに、俺はもう疲れたんだよ》


 俯き頭に手をあて、俺は深く息を吐いた。


《許してくれとは言わない。だけど、お前らにはちゃんと真実を理解してもらいたい》


 顔をあげ、俺は一度全体をぐるりと見渡してから、言った。



           《これがただの、ドッキリだって事をな》

 


 「え?」という反応が大講堂を埋め尽くす。その一瞬時が止まったかに思えた空気、しかしその中で一人の男子生徒が壇上によじ登った。


 柔道部部長、檜山は威圧するように床を強く踏みつけ肩で風を斬る様に俺に近づいてくる。相変わらず無駄に良いガタイをしている檜山は、教壇の横を通り俺の目の前で立ち止まる。


 聴衆からの反応はない。固唾を呑んでいる、という表現がぴったりなほど静まり返っている。被害者と加害者。因縁の相手ではあるが、この関係になってから俺たちが顔を合わせたのはこれが初めてだ。


《……結崎よぉ》


 檜山のドスの利いた声をマイクが拾う。


 檜山が右手を大きく振り上げた。


 俺も、右手を大きく振り上げる。


《《大・成・功!!》》


 俺たちは、軽快にハイタッチを交わした。


 同時に、鎮まっていた大講堂のいたるところからクラッカーの破裂音が響く。破裂させたのは大勢の柔道部員だ。


 そして、壇上の天幕から『祝      ドッキリ成功』という横断幕が落ちる。


《つーわけで、見事に騙されやがった生徒諸君! 今どんな気持ちだ?》


 教壇の前に移動して構えたマイクを使い全体に問いかける。


《俺が犯罪者? ねぇよ。分室から見放された? ねぇよ。柔道部が率先してイジメを行っている? 悪いが全部ねぇよ!》


《実は、全部こっちで仕組んだただのドッキリなんだよ!》


 いつの間にかに持っていたマイクを片手に、檜山も俺に乗っかってくる。いや言葉通り、檜山は最初から俺の話に乗っている側である。


 そもそも、最初からギルド以外に俺と敵対している人間はいないのだ。

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