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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、堕ちる
75/131

75話

 あとであの母親にはフォローでも入れておく事に決め、汚水で食えなくなってしまった弁当を片付けた俺は、体育館裏から移動した。


「お前こんなところに――って、なんか臭うぞ!」


「次から次へと、今度はお前か朱乃。あと臭いに関しては言うな」


 別に学校生活はどうでもいいが、この臭いだけは正直帰宅したいレベルだ。


「それもやられたってことか?」


「全く姉妹は思考が同じだな。別にお前が気にすることじゃない」


「……お前はそれで良いのか?」


「良いも何も、これは俺が招いた事態だ。それは受け入れるだけだ」


 もうこれを何回言ったか分からない。


 すると、朱乃は少し思案顔になった。


「西城と白鳥たちが放課後に集まって、どうすればお前を助けられるか話し合っていたのを知っているか?」


「おいおい、なんだよそれは」


「本当のことだ。まだお前に世話になった奴らが集まって、色々考えてたんだよ。あたしも数少ない信頼できる大人として、意見を求められたよ」


 馬鹿げている。昼間に俺と顔を合わせないようにしていた輩が、一体何をしている。


「でもそれが昨日、他の生徒たちの要請という名目で活動停止になった」


「だろな。これはもうただの迫害じゃないんだ」


 ギルドの意思で学園が動いている。それに歯向かえば、そうなるのは必然だ。


「馬鹿な奴らだ」


「本当にそう思ってるとしたら、お前はとんだクズ野郎だな!」


 朱乃の声には怒気があった。どうやら俺の周囲には、俺に説教したい輩が多いらしい。


「あいつらはお前の過去を知ってもまだ、お前を信用しているんだ。なのに、そのお前の態度は何だ! 今の話を聞いて、あいつらに何も思わないのか!?」


「期待をかけられたら、絶対に応えなくちゃいけないのか?」


「期待させる行いをした責任として、応える努力をするべきだとあたしは思う」


 責任と責任感を履き違えた、感情的な物言いだった。


 朱乃は真っ直ぐ過ぎる。こういうところが、あの母親によく似ている。


 真っ直ぐなのは悪いことじゃない。世間的には良いことだろうし、好感が持てる。


 そしてそれを貫くのは難しい。人間は必ずどこかで妥協を、ズルを考えてしまう。


 だが何があってもそれを貫き通せる人間は、怖いくらいに強い。


 そしてその強さは、俺にはない。


『いえ、お好きにと言ったのは私です。今さらそれを撤回するつもりはありません』


 そう、あの生真面目さは俺にはきっと真似できない。


 俺に出来る事は、『愚かにずる賢い知恵を絞ること』ぐらいだ。


 その時、俺の携帯から着信音が鳴り響いた。俺が取り出した携帯を見て、朱乃が怪訝な顔をした。それに構うことなく、俺は「ベルトの裏から取り出した携帯」で通話を始める。


《――――――――――》


 一方的に発せられる言葉を、俺は無言で聞き入った。


《――――以上》


 そして相手が全てを話し終えた。ならば、俺はこの言葉を返そう。


「了解した。んじゃ予定通り計画を始めようか。全員に言っておけ。最後まで気を抜くな。んで、明日の祭りに備えて今日は早めに寝ろってな。あと、西城とかが要らない気を回したようだ。あとで菓子折り持って土下座しようか」


《了解》


 通話を切り、俺は再び携帯をベルトの裏にしまった。


「その携帯は一体何だ? それに今の会話は……?」


 見たことも無い携帯を俺が取り出したこと、そして最後の言葉は朱乃には理解が苦しいものだろう。


 だからこそ、俺はこの言葉を贈ろう。




「明日、お前に真実を教えてやるよ」

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