表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、堕ちる
74/131

74話

 この話を聞いて、俺は久しく感じなかった憤りを感じた。


「それはつまりあれってことか? 捻じ曲がった人格に成長しちまった俺を、可哀想って同情でオブラートに包もうってわけか?」


《そうね。そう取られても仕方ないわ》


「あんたな!」


《でもそれ以上に、これは私の自己満足なの》


 自己満足?


《私があの人の勝手にさせてしまったばかりに、生まれたばかりのあなたは連れて行かれた。その時、私は母親としての責任を果たせなかった。だからせめてこの年齢の間だけは、しっかりと学生として生活して欲しかった。そうやって、私はあなたに母親として責任を果たした気になりたかったのよ》


 電話越しでも、あのキャリアウーマンを地で行く母親が、苦しみながら話しているのが分かった。


《ごめんなさい。私のわがままで、今のあなたが苦しい状況にいる。だから流斗、もういいわ。あなたの能力ならもう十分に――》


「ふざけるなよ」


《流斗?》


 たった一言。だがこの言葉に、今の俺の感情が凝縮されていた。


「あんたのわがままで俺が苦しんでいる? 笑わせるな」


 自分の中で看過できないもの、止められない感情が暴れ出す。


「俺がこの状況にいるのは、俺が行動した結果だ。俺の意思だ。それがあんたに決定されたなんて、ふざけるなよ。確かに俺は生まれた時に親父に連れ去られた。そこに俺の意思はない。施設で死ぬような思いをして生き延びたのも、強いられてやったことだ。だがな、今ここであんたと話して、あんたにむかついてるのは俺の意思だ。洗脳だとかイカレているとか言い出すんだろうが、何を言われようが俺の意思だ。あんたの行動は、その俺の意思をまるで考えていない」


 続きの言葉を、俺は一瞬躊躇った。


「今のあんたに、母親を名乗る資格は無い」


 一方的に電話を切り、携帯をポケットに突っ込んだ。久しぶりに感情を爆発させてしまったためか、火照った体にはずぶ濡れの状況が少し心地よかった。


 母親の責任。そんなもの、最初からありはしない。そもそも俺は志保という異例を組織に隠すために、親父が早々に連れ去った欠陥品なのだ。


 結崎の家の男児には、代々嘘を見破る力が受け継がれていく。そしてその力をより強固なものにするために、優れた相手と子供を作り、その子供が十分な社交性を身につけた十八の年齢で、先代から手ほどきを受ける。


 だがこの代で、男児である俺に受け継がれるはずの力が、志保に受け継がれてしまった。親父はその異例を隠し、俺を組織内で育てることで後天的な力を備えさせた。


 確かに母親、産みの親の責任は決して小さくは無い。


 だがこれは結崎の問題である。そして母親は家族にはなれても、血統という意味で一族の人間にはなれない。


 そこに、あの母親が負うべき責任は存在しない。負うことさえできない。


『抱く女は一人だけにしろ。優れたとかそんなもの気にするな。でもな、結局この家系は優れた女を好きになっちまうんだよ。そして代々、俺たちはその女を泣かせてきた』


 そして親父もまた、ある一面では被害者なのだ。結崎という、世界の裏側で脅威を持つ伝説の諜報員を生み出す血筋。そこに生まれた瞬間から、既に救いは存在しない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ