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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、堕ちる
67/131

67話

《二〇一一年五月六日。オランダ、アムステルダムの美術館で絵画を四点》


 支倉が静かに言った。


《同年七月。中国上海の宝石店で総額五千万の宝石。同年九月、フランスの豪邸に飾られていた絵画を一点。同年十一月、アメリカニューヨークで開かれた展示会で絵画、宝石、資料合わせて十点》


 誰もが固唾を呑み、その言葉を聞いていた。


《そして翌年の二〇一二年二月、日本東京の展覧会にて総額三千万の宝石》


 大講堂の空気が一気に張り詰められた。


《彼は半年前、東京の栄凌美術館で逮捕されたグラウクスだ。皆も知っているだろう。そう、彼は紛れもなく犯罪者。それも誰もが知る、あのオリュンポスという犯罪組織に属していた。確かにこの方たちの言い分は理解できる。彼は逮捕され、改心したかもしれない。だがつい先日まで犯罪者、かの大怪盗とこれからも仲良くしてくださいと言われても、はっきり言って無理だ。そもそも逮捕された彼が、何故この学園に通っているのか。未成年だとしても、彼の犯した罪は決して軽くないのに関わらず。だからこそ、僕はここで一つ宣言したい》


 壇上の支倉は、聴衆に向き直った。


《僕は彼の学園からの退学を要請すると共に、逮捕したはずの警察へ異議を申し立てる》


 はっきりとした心のこもった宣言。それは冷え切った聴衆の心に、再び火を灯すには十分な力を持っていた。



「やっぱり犯罪者だったのか」

「グラウクスって、あのオリュンポスのか?」

「そんなのと一緒の場所にいたのかよ」

「グラウクスって、本格的にヤバイ奴だろ!?」



 先ほどとは違い具体的な犯罪歴を知らされ、聴衆にも『犯罪者』という現実味が帯びてきたのか。


《ちょっと、あなたたち!》


 不穏な空気を感じ取ってか、西城が慌ててマイクを通して呼びかけようとする。



「お前たちは犯罪者を庇うのか!? 人殺しだぞ!」

「お前らだけが言ってても変わらないぞ!」

「結崎聞いてんだろ!」

「さっさと出てなんか言えよ!」



 だが群衆の野次は、先ほどまで感銘を受けていたはずの西城と白鳥部長も凶弾し始めた。


 教師陣も動揺し、まともな対応が取れていない。いや、そもそもギルド絡みのこの件をまともに止めようと思っているのが何人いるのか。


 室長は壇上でただじっと耐えている。西城と白鳥部長も、凶弾に晒されている。


 自分たちのことではなく、俺のことで危険に晒されている。


――もう潮時か


 俺は一階席の最前列から、壇上へとよじ登った。先ほどの騒ぎに乗じて、後ろから学生の間をすり抜けてきていた。


「結崎君!」


 叱責する室長の言葉に、軽く手を上げて答える。


「マイク、貸してくれ」


「あんた……」


 西城は恐る恐る俺にマイクを渡してくる。その態度は、俺が犯罪者であると自覚したからなのかどうなのか。確認できる空気ではない。


《よぉお前ら。お待ちかねの結崎流斗だ》


 俺の言葉に、野次という名の歓声が上がる。


《お前らも忙しい奴らだな。俺を出せと騒ぎ始めたと思えば、急にしおらしくなって。そんでまた俺を出せとか。全く幸せな奴らだよお前らは。まぁ御託は抜きにして、さっさと本題に入ろうか》


 俺が現れただけでは群衆は満足しない。下手したら噂の真偽すら、二の次かもしれない。


 西城の言うとおり、こいつらが望んでいるのは、噂に対して俺がどう反応するかだ。


《さっきこの男が言ったことだが、あれは見当違いも甚だしい。総額三千万の宝石? そんなわけあるかよ。お前らにはしっかりと、真実を教えてやる》


 聴衆のどよめきが次第に収まるのを確認して、俺は言葉を続けた。




《あれは三千万じゃなくて三億だ》


そしてこの言葉を皮切りに、大講堂に今までにない騒ぎが巻き起こった。

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