66話
そんな中で、壇上に新たな人物が踊り出た。
その人物は室長のマイクを奪い去ると、大きく息を吸って大声で怒鳴った。
《ちょっと黙りなさいッ!!》
大講堂の空気を文字通り震えさせる声に、聴衆は一瞬で静まり返った。
《この中で、あいつの世話になったのが何人いる?》
それを確認して、西城天里は話し始めた。
《あいつに助けられたのが何人いる?》
嘘のように静まり返った聴衆は、西城の言葉に耳を傾けている。
《あたしもあいつに助けられた。あいつは私の抱えている問題を解決してくれた。そういった人があなたたちの中にもいるでしょ? 確かにあいつはとんでもなくふざけたやつで、たまに……いや頻繁にこっちが頭に来るようなことをしでかす奴だけど、とにかく! どんな些細なことでも、あいつに助けられた人がいるでしょ?》
西城の言葉が響いているのか、聴衆から先ほどのような野次が飛ぶ事はなかった。
それだけでなく、また新たな人物が壇上へと現れた。
《あたしたち女子バスケ部も、彼に助けられたわ》
西城からマイクを受け取ったのは白鳥部長だった。
《どうしても守りたいものがあった。そのためには何でもしようと思った。でもそれを彼に指摘されて、彼がそう言った訳ではないけど、私は自分の行いが間違っていると思った。そんな私に気付かせてくれたこと、結崎君には凄く感謝してる》
別にそんなことのためにやった訳ではない。俺は俺の知的欲求を満たしただけで、高坂や白鳥部長に感謝されたかったわけではない。
だが当人がそう感じてしまえば、もう俺の知るところではないのも確かだ。
《噂は私も聞いた。私も本音を言えば、彼本人の口から話を聞きたいし、否定をして欲しい。でも、例え彼がその噂通りの人だったとしても、私は彼を信じる。私の知っている彼は、この学園の学芸特殊分室の結崎流斗だからね》
思いを伝え終え、白鳥部長はマイクを西城へと受け渡した。
この静まり返った聴衆が今何を考えているのか。それは本人たちの心の中でしか分からない。白鳥部長が言ったのはそういうことだ。
西城と白鳥部長。たった二人の演説で、場の流れは完全に変わった。
《いやいや実に泣ける話だ。感動したよ》
単独での拍手を交えながら、壇上に新たな人物が現れた。
ロンゲの優男、室長からもらった写真で見た、支倉遼一だ。
《これが分室の仕掛けでなくこの二人の単独というのであれば、大変泣ける話だ》
《あなたは誰? 文句でもあるの?》
支倉の態度に、西城が噛み付いた。
《いやいやそうじゃない。ただ単純に感動しただけだよ。でもこれだと、余計に彼の言葉が欲しくなるね。凶弾されるかもしれない危険を冒しても、自分を信じてくれた女の子。それなのに本人が出てこないんじゃ格好悪くないかい?》
西城に向けていながらも、支倉の言葉は聴衆の同調を得るようなものだった。聴衆に再び俺を出すよう、発破をかけているのだ。
だが、聴衆の反応は薄い。西城と白鳥部長の演説で、熱が冷めてしまったように静まり返っていた。




