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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、堕ちる
60/131

60話

 放課後。仕事も終わりを告げた時間に、俺は分室の応接室で室長と対面していた。


「あんたなら、何か知っているんじゃないのか?」


 俺は昼間に起こった事を全て話した。美術部の手伝いをしていた時に見つけてしまった、本来ここにあるはずの無いもの。俺が海外の美術館から盗み出し、組織が管理しているはずのルドンによるモナリザの模写についてだ。


「どう考えたっておかしい。あのモナリザはルドンの特徴が出すぎて、逆に売れずに組織で管理することが決まっていた。それが何故この学園にある?」


 商品は買う人間がいて、初めて価値が出る。盗品に関しては逆に有名すぎてしまうと、自分の首を絞めることにつながってしまう。何故この盗品を持っているのか、どこから買ったのか。それを問い詰められでもしたら、上手い言い逃れや、裏で根回しをするしかない。そのような危険な代物は買い手がつかず、いくら素晴らしい作品でも売れない事がしばしばある。


 そんな曰く付きの代物が、驚くべきことに栄凌学園の理事から寄贈されたのだ。


「つまりこれって、そういうことでいいのか?」


 あえて言葉を濁し、室長の言葉を待つことにした。室長の顔色は変わらない。相変わらずの読めない、真剣なのか笑っているのか、どちらにも取れる表情で俺を見ている。


「……そうだね。君の想像通りだよ。この学園の理事会は、オリュンポスと繋がっている。というか、この学園はオリュンポスによって運営されているんだよ」


 しみじみと言った風情で、室長は言った。


「この学園の理事、学校法人が政治家によって組織されている事は知ってるよね?」


「朱乃から聞いた。そいつらがギルド関係者って事もな」


「そう。それで、今この学園の理事長、これは公になっていない本当の理事のことね。それは今の法務大臣、支倉真一。彼の事も知ってるよね」


「知ってるも何も、半年前まで同僚だったよ」


 日本の法務大臣、支倉真一。また、オリュンポス幹部、十二神の内の一人であるディオニューソスの地位にいる人物である。


「なるほど。奴が経営している農場があるとか噂を聞いたが、それがここだってわけか」


「そうだね。ディオニューソス本人、またはその側近が代々ここの理事を勤めているよ」


 かつて俺はこの学校のギルドの立ち位置を、一般社会で言うオリュンポスに喩えたことがある。あれは間違いではない。それどころか、本質を突きすぎていたとも言えるわけだ。


 オリュンポスから離れ、俺は一般の生活と言うものに放り込まれたはずだった。だが、そこすらもオリュンポスの監視下だったとは笑えない話だ。


「これは学園の上の人間だったら、誰でも知っていることなのか? それとも、またあんただからこそ知っていることなのか?」


「上の人間でも知らないことだよ。これはほんのごく一部、関係者くらいしか知らない」


「てことはつまり、あんたも実はオリュンポスと関係があったって事でいいんだな?」


 それならば、俺がグラウクスであることを知っていることも納得がいく。


「そう、不本意ながらも僕はオリュンポスの人間と繋がりを持っている。だから君のことも知っていたよ」


「ならこの分室は所詮茶番って事か? ギルドに対抗するって言いながら、その室長のあんたがギルド側だったなん――」


「いつ、僕がギルド側の人間だって言った?」


 突然、室長の声音が鋭いものに変わった。今の室長の感情なら用意に読み取れる。明らかに俺に対して、怒気を持っている。今の言葉のどこかは分からない。だが確実に室長の逆鱗に触れたのだろう。


 室長は机の引き出しから書類を一枚取り出し、差し出してきた。そこには一人の男子生徒の情報が記載されていた。


「今のギルドの長の支倉遼一は、支倉真一の息子だ」


 声は先ほどよりは大人しい、だが厳格な何かを感じさせるものだった。


「そして僕の腹違いの兄にあたる」


 異母兄弟。つまりどちらの父親も、支倉真一であると言うことだ。だが名乗っている姓。その違いは決して小さくはないだろう。


「昔から色々競わされてきたよ。あれはあの人の後を継ぐつもりらしいけど、そんな気が無い僕にとっては、迷惑なことこの上なかった。だからあれがギルドに入ると言った時、僕は分室へと入った。親に対するささやかな反抗心だよ」


 室長は自虐的に笑みを零した。

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