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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、堕ちる
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59話

「それでは作業を始めましょうか」


 部長の号令で美術部員と協力して、トラックから荷物を取り出しにかかる。中には四、五人でようやく抱えられる大きさのものや、小さいくせに異常に重たいものなど、やはり美術品というべきか、箱に入っていながらも癖のある品が多く存在した。


 俺はその中で絵画らしきものを、部長と共に運んでいた。俺が前方を、部長が後方を持って慎重に運び出す。


「そう言えば、これって美術部で全部買ったのか?」


 予想以上に多い品々を見て、疑問に思った。これを買ったとしたら、相当な金額だ。


「いえ、これらは全て寄付されたものです。流石にこれ全てを買うほど部費はありません」


「なるほどな。しかしこれだけの量が寄付されるってのも、それはそれで――」


 言葉を続けようとしたその時、突然視界が真っ白に染まった。


「ッ!」


 俺は反射的にあらゆる行動よりも優先して、その場から飛び退いた。太陽を直視しようとした時に出来る残像が視界に浮かぶ。晴天の空から雷が落ちたわけでもなければ、カメラを構えられた時の特有の視線も感じられなかった。


 だが、確かに目に何かの閃光が入ってきた。


 一体何が――


「あ……」


 続けようとした思考を、目の前の光景を見て中断した。俺は部長と共に美術品を運んでいた。そこで俺が勝手に飛び退れば、当然美術品から手を離すことになる。落ちた衝撃で箱を突き破ったのか、新聞紙に包まれた数枚の絵画が地面に投げ出されていた。


「結崎君、何があったのですか!?」


 一部始終を見ていたのか、あーやが問いかけてくる。


「これは……本当に申し訳ない」


 手伝うどころか邪魔をしてしまったこともそうだが、美術品を粗末に扱ってしまったことのショックも大きかった。


「いえ、それよりも大丈夫ですか? 何か慌てていましたけど」


「あ、あぁ悪い。急にデカイ虫が飛んできて慌ててしまった」


 本当の事を話そうにもいろいろ面倒であり、心配してくれた部長には心苦しくも、そういうことにしておこう。


「それより、絵の方は大丈夫か? 今ので傷がついていたら大変だ」


「それなら大丈夫ですよ。美術品と言っても、そこまで価値のあるというものでもありません。それに絵画は全て模写らしいですから。気にしないでください」


「それでも……すまない」


 失敗を引きずってはいけないと思いつつも、人間の思考はそうも行かない。こればかりは流石に心にきついものがあった。


「おや、これだけ包装が掛かっていませんね」


 投げ出された絵画の中から、あーやが一つを拾い上げた。確かに他とは違い、それだけ何も包装されておらず、絵がむき出しになっていた。


 その絵を見た時、俺は思わず目を疑った。


「これは……モナリザですか?」


「そうですね、当然模写ですが。この世で最も知られている作品と言われています」


「私はあまり絵画を見たことが無いので、本物との区別があまりつかないのですが」


 あーやはモナリザの模写を凝視する。


「どうです結崎君、本物との違いが分かりますか?」


 あーやが問いかけてくるが、それに構っている余裕はなかった。


「結崎君?」


――嘘、だろ?


「あの、結崎君?」


――何故、これがここにあるんだ?


「私の話を聞いていますか?」


――有り得ない、こんなこと有り得ない!


「結崎君!」


――だが、この俺が見間違うはずがない!


――この作品を、俺が見間違うはずが無い!


「……部長。これは全部寄付だって言ってたな?」


「え、はい。そうですが?」


「どこからの寄付だか……分かるか?」


「この学園の理事からです。趣味で集めていたものと聞いています」


 なるほど、そういうことか。趣味……ね。笑えない冗談だ。


「結崎君、一体どうしたのですか?」


 そのあーやの問いに、答えることが出来なかった。答えられるわけがなかった。


 目の前にあるこのモナリザは、確かに本物ではない。


 だがそれは『本物のモナリザかどうか』に判断基準を置いた場合だ。


 これは一年前に『俺』が盗み出した、『ルドンによる本物のモナリザの模写』だ。


 ダヴィンチのモナリザの模写ではあるが、ルドンの作品としての価値は臆にも届く。


 そして何よりも問題なのが。


 

 これは現在、オリュンポスの管理下にあるはずの代物だということだ。

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