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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、堕ちる
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58話

 趣味を仕事に出来る事はとても良いことである。嫌々やる仕事よりは、楽しい仕事の方が当然気分的にも効率的にも良いことは誰もが理解できるだろう。学者やスポーツ選手などは、はっきり言って趣味を追及した人間の終着点であり、それで食い扶持を稼げるならばそれに越したことはない。


 ただ唯一の欠点があるのだとすれば、それは仕事にしたことにより生まれてくる責任に、押し潰されてしまう可能性があるということだ。自分だけで完結する趣味とは違い、仕事にするからには他者との関わりが必須になる。その中で生まれてくる責任という重圧に負けてしまうと、好ましい趣味が一転して自分を追い込む自殺装置となる。好きだったものだけに、それが嫌いになってしまう時のショックは大きい。


 だが逆に言えば、適度のバランスを保ちつつ趣味と実益を両立出来れば、一番の旨味が得られるということでもある。本業というわけではなく、片手間で楽しめて、多少稼げる位がちょうどいいわけだ。


「結崎君。失礼ですが、先ほどからやっているその薄ら笑いを、止めていただけないでしょうか? 酷く不快な気分になります」


「おう! それは済まない!」


「そんな清清しく謝罪されても困ります。何がそんなに嬉しいのですか?」


 目頭を押さえながら、あーやは本気で悩ましげな表情をする。


「何って、そりゃ今から俺たちがすることに決まっているだろ?」


「今からすることと言うと、ただの美術部の資料の搬入のお手伝いですが」


 俺とあーやは校内にある搬入口に立っていた。学園指定のジャージに着替え、両手には軍手を嵌めている。俺たち以外にも、数人の生徒が同じ格好で待機している。完全労働スタイルだ。


「今日は手伝いに来てくれてありがとうございます」


 そう言って俺たちに話しかけてきたのは、美術の部長である。


 依頼が届いたのは昨日の放課後だった。なんでも美術部の資料として新しい美術品が明日――今で言う今日――の夕方に届くらしく、搬入の手伝いをして欲しいというものだ。始めは周防と三年の女子が行うことになっていたのだが、俺が目ざとく美術品という言葉を見つけ、仕事を――無理矢理――変わってあげたのだ。


 そして俺とのペアということで、自然とあーやもこの搬入援助に加わることになった。


「いえ、これも依頼ですから。しかし美術品の搬入というのは、普通業者の方に任せるものではないのですか?」


「それが……自分たちの物は自分たちで管理しろ、と顧問から言われまして」


 理に適ってそうで、実に意味不明な理由だった。


「だが、それのおかげで俺はこうして美術品を鑑賞する権利を得た。それで問題ない!」


「依頼を進んで受けようとしていた時点で、何かがあるのだとは思っていたのですが。まさか結崎君に、美術品を鑑賞する趣味があるとは思いませんでした」


「いいじゃないか美術品! 最高じゃないか!」


 グラウクスの犯行は世界中の美術品、宝石類の盗難だ。だがこれはあくまで表向きの話で、その本質はあらゆる施設への潜入による諜報活動であり、世間を賑わせていた大怪盗という一面は、グラウクスという存在の実益を兼ねた個人的趣味だ。確かにこれを盗み出せ、という仕事がたまにきたりするが、基本的には趣味の延長である。


 俺の最後の仕事となった、栄凌美術館からの天空に飛び立つ少女の盗難も、元は上から出された仕事である。しかし実のところ俺個人もルドンのファンであり、とても気合いを入れていた仕事だった。


 ……そこまでしておいて捕まった、というツッコミはこの際なしでいこう。


 もう少し加えると歴代のグラウクス、というか結崎の一族は基本的に美術的感性に鋭く、全くそういった訓練をされていない志保ですら、良質の芸術品を見分ける目を持っており、自身も絵画のコンクールで入賞するほどの腕前を持っていたりする。


 これが各国の富豪たちに恐れられている、グラウクスを輩出してきた血筋というわけだ。


「よくもまぁ室長も許可してくれたものですね」


「日ごろの行いって奴だな」


「そんな自信満々に言われても困ります」


 見るからにあーやが呆れた声を出した時、ちょうどトラックが搬入用の門を潜ってきた。

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