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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、助ける
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56話

 六月の後半。梅雨まっさかりの今、俺は独特のしとしと降る雨を呆然と眺めていた。


「何を黄昏ているのですか?」


「野暮なことを聞くなよ。ほら、物思いに耽るぐらいよくあることだろ?」


「そうですね。ただでさえ知識基盤社会と言われる昨今、高校生という多感な時期である私たちが将来のことなどに関して、思考を巡らせる事は当然と言えます」


 目を瞑り一度頷いてから、あーやは言葉を続けた。


「だからと言って仕事をサボる理由にはなりません」


「嫌なんだよッ!! もうA4の紙触りたくねぇんだよ! 毎日毎日毎日毎日、書類の整理ばっかさせやがって! 年末に年賀状捌く郵便局の臨時バイトじゃねえんだぞ俺はッ!」


 郵便局に潜入する際に使用した身分ではあり、送られてくる年賀状を郵便番号ごとに長時間淡々と捌いていくだけの簡単な仕事だ。無心というか、何かこう……悟りの境地すら見える、少し次元の違う仕事だった。


 なまじ記憶力を鍛えられたため、仕事効率が跳ね上がり「お前のおかげで今年は早く帰れるぜーハッハー!」と、徹夜でハイになってしまった正社員たちに感謝された。


「ほらほらさっさと仕事しなさいよ。あたしたちに奉仕するのがあんたの仕事でしょ?」


「でも結崎君て、本当に奉仕活動とか似合わないよね」


「んで、てめえらは何でそこでくつろいでんだよ」


 部外者で、依頼人でも無いくせに分室のソファーに座っている西城と成美さんを睨む。


「あたしはマネージャーが来るまでの時間潰し。ほらあたしって今売れてるじゃない? 外を出歩くのも楽じゃないのよ。だからここに来てるの」


「あたしは新聞部内で結崎君の専属記者になったので、これでも仕事中なんだよ」


「ぶっちゃけどうでもいいから帰れ」


 ここは時間を潰す場所でもなけりゃ、俺の専属記者になってもここにいて良い理由にはなるはずが無い。てか専属記者って何だよ。


「まぁ正直な話すると、仕事も忙しくなってきたし、学園生活も良好ってわけじゃないから、気が休まるのがここぐらいしかないのよ」


 何の飾りも無く、ため息をつきながら西城が心情を吐露する。


 西城の依頼が無事完了し、週末を挟んで再び学園が始まった。ストーカー事件は無事に解決し、もう西城を付き纏う者は俺を含めて存在していない。


 ストーカーの犯人、水林はあの後直ぐに犯行を認めた。マンションの管理人、上京したばかりの西城の世話役という立場を使い、ストーカーを行っていたのを自白した。持ち歩く私物には仕掛けられていなかったが、マスターキーを使い部屋に侵入し、西城の私物を盗聴器入りのものと交換したなど、推測は当たっていた。


 そして西城が学園を無断で下校したことを不審に思い、盗聴器からの音声で俺たちが盗聴器の存在に気づいたことを知って、慌ててマンションに駆けつけたという。後は水林とその協力者たちは返り討ちに遭い、見事お縄についた――ということにはならなかった。


 すべてを自白し、警察沙汰にしないで欲しいと訴える水林を、西城は許した。だが無条件というわけではなく、「あんたのところの会社のCMに、あたしを起用しなさい」と、ビジネスに結びつけたのだ。


 強かというか、抜け目が無いというか。法律による慰謝料請求よりも、このネタをチラつかせることで、逆に水林から仕事を斡旋させてもらうことを選んだのだ。どう見ても立派な脅しである。だが元々水林が西城の所属する事務所のスポンサーだった関係から話もすんなりと決まったらしく、今週末には撮影に入るとの話を聞いた。


 順調に仕事が増えているのだが、それにつれて学園では女子連中からは更なる陰湿ないじめに遭っているらしい。芸能科に所属している西城ならば社会貢献度で単位が降りるらしいのだが、仕事が無い時はきっちりと学校には通っている。


 来なくて良いと言われているのに何故学校に来るのか、と聞いたところ「高校生のあたしが学校に来て何がおかしいの?」と答えられ、何も返せなかった。


 学校という施設の意味は理解している。高校進学率がほぼ百パーセントになっているのだから、適齢期である西城が高校に行くのも何もおかしいところはない。知識を習得することも、それはすばらしいことだと思うし、馬鹿よりは聡明な方が好ましいだろう。


 だがすでに仕事を持っている西城が高校に行く意味があるのか、ということに関しては俺の中では未だに納得しきれない部分がある。面倒な問題を抱えているにも拘らずそれを圧してまで送るほど、学校生活に価値があるとは未だに思えない。

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