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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、助ける
54/131

54話

 水林を先頭に、俺たちは水林へと向かった。そこは西城の部屋の真下の一階にあり、距離でいれば十分電波を拾える範囲内に存在している。


「どうぞ」


 鍵を開けた水林は、ややヤケになった声音で告げ、先んじて部屋へと入っていった。それに続きあーや、西城、俺の順で入っていく。部屋の構造は真上に位置する西城と同じ1LDK。キッチン付きの廊下を抜けた先に、リビングが見える。


 先に入った水林がリビングの中ほどへとたどり着き、こちらに振り返った。それに続いて俺もリビングへと足を踏み入れる。


 その瞬間、あーやと西城が左右から出てきたものに、突然押さえつけられた。


「なっ!?」


「きゃッ!?」


 右から来るものを何とかいなしたあーやだったが、後手に回っている分、左からの対応が間に合わず、なす術がなく西城同様に床へと押さえつけられてしまう。


 二人を押さえ付けている者、それは複数の屈強な男たちだった。着ているのは栄凌学園の制服。部下か協力者か知らないが、水林の仲間である事は明白だろう。


「できることならこんな野蛮な方法を取りたくは無かったのですが。ここに待機させておくだけのつもりが、まさかそちら側から来てくれるとは思いませんでした」


 先ほどとは打って変わって、水林は饒舌になった口調で言う。


「ほんと悪趣味ね……あなた。今まで気付かなかった自分が腹立たしいわ」


 毒づく西城だが、拘束されているという恐怖の心理状態からか、やや弱弱しく聞こえた。


「ここまですれば、もう言い訳はできませんよ?」


 抜け出そうとするあーやだが、元が華奢なために男に抑えられるとどうしようもない。


「誰に何を言い訳するというんですか? 逆ですよ。その心配が無いからこういう行動が取れるんです。イニシアチブはこちらに移ったのですよ」


 さきほどまで追い詰めていたのはこちら側だった。だが実力行使を許した結果、こうして形勢は逆転されてしまったわけだ。


「あーや、新たにもう一つ言おう。頭の切れる人間が自分に不利な情報を流す、もしくはその状況を許すのは、何かしらのねらいがあるってことだ」


「貴重な教訓ありがとうございます。ですがそれはもっと早めに……え?」


 呆けた表情のあーやに、分かりやすく肩をすくめて見せた。


「ちょっと待て! お前、何故誰にも拘束されていないんだ!?」


 西城やあーやと違い何事も無く立っている俺に、水林は驚きの声を出す。


「そんなもん簡単だ。部屋に入った瞬間に、強襲される事は予想してた。そもそもあんたがここに入ることを許可したって事は、本当に証拠がないか、もしくはここに踏み入られることで逆に状況がひっくり返る何かがある、ということだ。強襲はその一例だった」

 

 俺の足元には手首と鳩尾を押さえ、苦しんでいる二人の男がいた。ちょうどあーやと西城が取り押さえられたのと同時に、俺に襲い掛かってきたやつらだ。ガタイもよく武術の心得もあるようだったが、相手が俺というが運が悪かった。


「ちょッ! そういう事は分かってたんなら教えなさいよ!」


「だから言っただろ? 不利な状況をわざわざ許すのはねらいがあるんだって。あえて回避するよりは、この状況になってくれた方がオイシイ。さっきこいつ自身が言った言葉だが、これで言い訳ができなくなったんだからな。決定的な証拠の出来上がりだ」


 証拠がないなら炙り出せばいい。水林は管理人室に誘い込むことが好機だと思ったように、その水林の心理がこちらにとっても好機になる。


「ふざけるな! 空手部の精鋭だぞ!? 知っていても撃退できる訳が――」


「あんたにも一つ言ってやろう。どれだけこいつらが強かろうが、それよりも俺が強かっただけだ。っと、空手部の三年の進藤と杉浦ね」


「なっ!」


 捌いた時に抜き取った財布から、学生証を取り出す。自信満々に顔を出しているが、これで逃げられた時も絞込みが容易になる。五千人の中から地道に探すのはナンセンスだ。

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