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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、助ける
50/131

50話

 そんな状態ではあったが、


「嘘……」


 と西城の口から驚愕がこぼれたのは、それから五分も経っていない時だった。


 俺の目の前には解体された目覚まし時計の部品が広がっていた。元々は何の変哲もない市販の目覚まし時計だ。寝そべっているアザラシだかラッコだかの腹部にアナログ時計があり、陽気に伸ばしている小さな手がオンとオフを切り替える代物だ。


 だがいざ分解してみれば、そこには本来時計には必要ない部品が混ざっていた。黒い小さな直方体。ある意味捜し求めていた盗聴器である。


 盗聴器は、何もそれらしい姿で置いてあるわけではない。逆に今の主流は、他の電子機器に寄生したタイプがほとんどだ。盗聴器でありながら、本来の機能を損ねない。それこそが最大のカモフラージュになる。


 そしてこれは目覚ましだけではなかった。持ってきてもらったのは電卓やテレビのリモコン、電子辞書、常備している護身用のスタンガンなどで、それらの一部に盗聴器が内蔵されていたのだ。


「よく気付いたな」


「前に志織さんから聞いたことがあります。ですが、私も半信半疑でした」


 時計本来の機能につながれていない配線を手に取り、あーやは感慨深く言った。すでに盗聴器は電子レンジにかけることによって、その機能を停止させている。


「正直、俺自身疑ってたさ。はっきり言ってまだ学生って身分のやつが、ここまで精巧な盗聴器を持っているとは思わなかったからな」


 盗聴器自体はネットでも売られていて、容易に手に入る。問題はわざわざ西城が買った目覚ましと同じ型に盗聴器を仕掛け、西城のものとすり替えたという大胆不敵さだった。


「ちょっと待て! こんなものがあたしの家にあるってことは、つまり……」


「ストーカーがお前の部屋に入ったという証拠に他ならない。基本盗聴器は中に入って仕掛けるしかないからな」


「ッ!」


 西城は声にならない悲鳴を、口を押さえることで何とか堪えた。親の反対を押し切って上京した女の一人暮らし。その親の危惧が、ストーカー犯罪と言う形で現実に現れてしまったことによるショックは大きいだろう。


「ショックを受けるのは構わない。だが、顔を上げろ」


「ですが今の西城さんはそれどころでは……」


「この盗聴器で、ストーカーがここに部屋を借りているのが分かった。追い詰めるぞ」


 盗聴器が見つかったことがマイナスな面に働くわけではない。むしろ、これは次の一手に繋がるきっかけになった。


「えっ……?」


 戸惑いの声とともに西城が顔を上げる。その目には、僅かに涙の跡が見えた。


「分解して分かったことだが、このタイプでは電波を受け取るのに、最長でも十メートルほどの場所にいる必要がある。だがここは四階だ、地上からは十メートルは離れている。それにこの電波を受け取るためにはそれなりの設備が必要だ。それらを考慮した結果、それができる空間はおのずとこのマンションの一室であることが導ける」


 手段は巧妙だが、使われている盗聴器は安物だ。十メートルを超える代物はそれなりに値も張り、音声を探知した時のみ電波を発するものもあるが、仕掛けられていたのはただ音を拾うだけの無線式。追い詰める条件は揃いつつある。

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