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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、探る
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5話

「ついてきなさい」


 問いに答えず、朱乃はそのまま席を立った。目的地も理由も言われない状況、後をついていくのは嫌な予感しかしないが、ここで逃走しようにも、監視の名目で朱乃と俺は現在同じマンションで同居している関係にある。そう、どの道逃げられないのだ。と言うか一緒に住んでいるにもかかわらず、今更この学校がどうか、という問いをする時点で朱乃が何かを企んでいるのは分かっている。


 職員室を出て、肩を並べて廊下を歩く。朱乃は女性としては長身にあたるが、百七十半ばの俺と並ぶと流石に小さい。


「一体俺に何をさせる気だ?」


「流斗、お前社会貢献をしてみないか?」


「今まで正反対のことをして食い扶持を稼いでいた人間に、社会に対して謝罪と反省の意味を込めて奉仕しろと言うことか?」


「謝罪も反省も、過去の自分を過ちと認めた気持ちから来る行為だ。その点お前は過ちなんて微塵も思ってないだろうから、そんな事は期待してない」


「だろうな。それを過ちだとすれば、俺の人生は十五年丸まる過ちになる」


 半年前までの生活が間違いなど、それこそ微塵にも思わない。あの頃の生活があるからこそ、今の俺がある。それを否定できる訳が無い。


「だから謝罪でもなく、反省でもなく、ただ無心で社会貢献をしてみないかってことだ。いいぞー社会貢献楽しいぞー」


 とても元ヤンが言う言葉ではない。というか棒読みすぎんだろ。


「んでその本心は?」


「あんたがせこせこ社会貢献している姿を見て爆笑したい」


 決めた、帰ろう。


「はい着いた!」


 無理だった。いつの間にかに左腕の関節を決められており、逃げるに逃げれない状態になっていた。いや逃げようと思えば逃げれるが、朱乃も本気で俺を逃がそうとしないのが見えている手前、逃げようともがけば冗談じゃなくなる。


 たどり着いた扉、そこには「学芸特殊分室」という名詞が書かれていた。おそらくこの部屋を使用しているクラブの名称であろう。だがなんとも実態を想像し難い名前だ。


「この名称に覚えはあるか?」


「いや、無い」


「んじゃ学園の便利屋には?」


 その名前には聞き覚えがあった。なんでも、依頼を出せば校則や法に違反しない限り、それを達成してくれる何でも屋がいるらしい、というのをクラスの誰かが話しているのを盗み聞いたことがある。


「んじゃそれがここか?」


「そういうことだ」


「って事はつまり?」


「お前ここに入れ。大丈夫だ! 顧問は私だから」


 何が大丈夫なのかわけが分からん。逆に不安だ。便利屋と言うと頼りがいがあって聞こえは良いが、早い話がパシリである。まだ学芸特殊分室の実態が明らかになっていないが、決して良いもので無い事は確かだ。


 奉仕活動、つまり無償の支援。嫌な予感しかしないんだが。


「まぁとりあえず入れ!」


 早く盛大に笑いたいのか、扉を開けて朱乃は俺を力ずくで部屋へと押し込んだ。


 部屋の内装は事務所、という響きがしっくりと来た。部屋の左右にはファイルの束が綺麗に整頓された本棚が並び、中央には事務用のデスク。また、部屋の奥には仰々しい木製の執務机が置かれてある。


 そして部屋唯一の人間で、その一番偉そうな机に座っている偉そうな人物が、ノックも無しに部屋へと入ってきた俺たちに目を向ける。


「これは神北先生。今日はどのような用件で?」


 眼鏡をかけた少し癖の強い短髪の男子生徒は、温和そうな笑みと口調で俺たちを出迎えた。

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