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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、助ける
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49話

「私は人生で初めて学校をサボってしまいました」


 隣に立つあーやは、まるで魂が抜けたかのような表情をしていた。


 俺は盗聴の危険を感じて直ぐにあーやに連絡を入れ、西城とともに西城の自宅に向かった。午後の授業を完全にすっぽかしての行動であり、校門のところの改札口には時間外の無断下校の記録がしっかりと残っていることだろう。


 電車で一駅分の距離にある西城のマンションに着いた時、ちょうどあーやを乗せたタクシーも到着したところだった。


「状況が状況なんだ、仕方ないだろう。というか何でタクシーで来たんだ?」


「急いで来い、緊急だ。と言ったのは君です」


 だからといって、タクシーを使って追いつくとは誰が予想できるのか。金銭感覚の問題ではなく、緊急という言葉が最優先に考えられた行動か。


「ごめんなさい、あたしのせいで」


「いえ西城さんが謝ることではありません。事態が緊急なのは事実ですから」


「それじゃあ、あなたはこいつの言っていることを信じてるの?」


 あーやには電話口ではあるが、一通りの状況を説明してある。


「そうではありません。信じていると言う訳ではなく、否定できる根拠がない、というのが本音です。だからそれを確かめる必要があるのです」


 その通りだ。この仮説は俺が多くの可能性の中から、検証する価値のあるものとしてあげたものである。そして検証も無しに物事を断定するのは、浅はかな考えだ。


「それだけで?」


「確かに以前の私ならば、こんな考えは持っていませんでした。その点で言えば結崎君の発案という補正はあるかもしれません。こういったことに関しては、冗談は言わないので」


「待て待て、それだと俺がいつも寒い冗談を言っているように聞こえるんだが?」


「そう言ったのだから、そう聞こえるのも当然でしょう」


「俺のはユーモア溢れる軽快なトークであってだな?」


「そういう言葉が寒いギャグだと言っているのよ」


 寒いギャグとか親父と一緒じゃねえか。今まで指摘されたことはなかったが、朱乃にも言われ、西条にも言われたとなれば、これは本気で首をつるほどの自己嫌悪だ。


 といっている間に、二人は俺を置いてマンションに入っていってしまった。


 西条の住む場所は俺のマンションと同じオートロック式であり、西条に鍵を開けてもらい、部屋がある四階を目指した。元々上京する際に、事務所がここを推してきてくれたらしい。なんでもここの経営母体である有名な水林ホールディングスが事務所のスポンサーになっていて、そういった業界のコネを作る意味でもちょうどよかったそうだ。


 オートロック式でもあり信頼できる水林だからと、親も上京を承諾したという。


「ちょっと待って」


 鍵を開け、部屋に踏み込もうとしたところで、西城が足を止める。


「盗聴されてるってことは、あんまり会話をしない方が良いんじゃないの?」


「まぁそう思うのも無理はないが、気にする必要はない。どうせ破壊するんだ。電波が受信できなければ気づかれるさ。逆に発見したと驚かせてやればいい」


 不安そうな西城の横を通り抜け、俺は部屋へと入る。1LDKの部屋は独り暮らしの学生にしては広いが、仕事をしていることを踏まえれば十分な物件だ。


「それで盗聴器なんてもの、どうやって探すのよ?」


「設置されやすい場所で言うなら、コンセント周りだろうな。オーソドックスなら三又のコンセントとかなんだが」


 西城に案内をしてもらい、全てのコンセントを確認していく。だが、どこのコンセントにもそれらしいものは見つからない。テレビなどの電子機器の周辺も探索したが、どこも当たりを引くことはなかった。


「見つからないってことは、盗聴なんてされてないってことなんじゃないの?」


 次第に西城の口調に呆れたものが混ざり始める。元々半信半疑だったのだから、見つからなくて拍子抜けしたのだろう。残念ながら今の俺は盗聴器を発見する道具を所持していない。自宅に戻ればワイドバンドレシーバーが部屋に眠っているのだが、今回はそれを取りに行っている暇がなかった。


 というのも、盗聴器は部屋だけでなく、西城の手荷物などにも仕掛けられていると俺は考えていたからだ。だからこそ西城に盗聴器の話を告げた時点で、犯人に先回りをされて回収されることを防ぐために、急いで西城の家へと向かう必要があった。


 あわよくば急いで回収に来た犯人とご対面、といったことも考えていたが、そもそもの盗聴器の存在が怪しくなったのでは本末転倒だ。不可抗力とは言え、部屋を捜索されている西城も良い気分ではないだろう。捜索レベルを一つ引き上げるか。


「西城さん。お手数ですが、今から言うものを持って来てくれますか?」


 そこで同じ考えに行き着いたのか、あーやが先に俺と全く同じ発想を告げた。


「え? えぇ、それならすぐに持って来れるけど……本当に盗聴器なんてあるの?」


「以前聞いたことがあります。確認する価値はあるかと」


「……分かったわ。ちょっと待ってて」


 西城は首をかしげながらも、渋々あーやの言ったものを取りに行った。

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