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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、助ける
47/131

47話

一日目。

「西城さーん、おはよー。今日も可愛いねー」


二日目。

「西城ちゃーん、好きだって聞いたからアップルパイ焼いてきたんだけど食べる?」


三日目。

「天里さーん、社会の資料集忘れたから貸してー」


四日目。

「天里ちゃーん、お弁当のおかず交換しよー」


五日目。

「おい天里ッ! てめぇ五百円早く返せや!」


「………………あんたちょっとこっち来なさい」


「あん?」


「いいからちょっとこっち来なさいッ!」


 昼休みに西城に会いに行ったら、何故か強制的に駐輪場へと連れて行かれた。


「……どういうつもり?」


 駐輪場に着くと、西城は不機嫌ゲージが限界を突破した顔で俺を睨む。


「その質問は俺の方だ。何故ここに連れてこられたのか説明を要求する」


 すると西城の頬が一瞬ピクッと動き、


「うッッッッッッざいのよあんたがあああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 どこから出したのかも定かでない野太い声で絶叫した。


「朝のあいさつは分かる! アップルパイも許そう! 社会の資料集もまだワンチャンある! でもお弁当のおかずって何!? てか何で日替わりで呼び方が違うのよッ! しかも日に日にフレンドリーに変化してるしッ! あんたはあたしの彼氏かッ!」


「どうでも良いが五百円忘れんなよ」


「それでその五百円て何よ!? あたしあんたにお金なんて借りて無いわよ!」


「アップルパイの代金」


「アレ金取るの!? てか高ッ!?」


「あたしが作ったんだから当然でしょ! アイドル料金よ!」


「だから無駄に上手いあたしの声真似するんじゃないわよ!」


 俺とて一晩でその一万倍もの稼ぎをしたことがある人間だが、悲しいかな組織時代の俺の口座は差し押さえられ、今は一般の高校生と同じかそれ以下の小遣いでやりくりしている。あと声真似は、これがまたからかうと楽しいんだよ。


「ハァ、ハァ、ハァ……あんた、ほんと何なの? 本気で私の依頼達成する気あるの?」


「無論だ。俺は俺の出来る限り、お前のことをストーキングしているつもりだ」


 俺が西城をストーキングすることで、もともとの西城のストーカーをおびき出す。それがあーやの立てた作戦だ。


 始めは俺を西城の偽の彼氏にすることを考えたらしいが、そうするとストーカーがヤケを起こして西城に危険が及ぶことを考慮し、俺が西城をストーキングすることになった。西城はいつも通りに当たり障り無く接することで、俺の方が一方的に言い寄っている構図を作り、ストーカー犯の意識を俺に向けさせる。


 ストーカーになるほど好意を寄せている西城に、表立って自分以外の人間が近づいているのだから、その俺をさぞ憎たらしく思っているに違いない。こうすれば何かを起こそうとした時にも、西城よりは俺の方が標的になりやすい。俺はストーカー犯がヤケを起こした時の囮になっているというわけだ。


 そしてアイドルとして知られている西城に言い寄る男、ということで周囲からの目も日に日に痛々しくなっており、確かにあーやの言うとおり社会的地位が低下しつつある。まぁ元々高くなかったから、もう下がりすぎて地下深くでモグラと仲良くしてるだろう。


「ストーキングしてるって言ってもそれだけでしょ? 何も進展して無いじゃない」


「いや、そうでもないぞ」


 俺はポケットから一枚の紙を西城に見せる。


「『これ以上ふざけた真似を続けるなら、覚悟しろ』って、これ脅迫じゃない!」


「そうだ。それが昨日の夕方に届いた」


 何も進展していないと見せかけ、実はあーやの読み通り、犯人さんはまんまとおびき出てきてくれたってわけだ。だが事が上手くいっているにもかかわらず、西城の顔色はよくなかった。


「いや、でも……これってあなた大丈夫なの?」


「あん? 別に何も問題無いが」


「だってこれ、覚悟しろって! 分かってはいたけど、まさかこんな……」


 西城は口を押さえて、見るからにショックを受けていた。自分の都合で他人を危険に巻き込む。それが目に見える形で現れているのだ。


「別に気にするな。このくらいの脅しに屈するほどヤワでもなければ、黙ってやられるほど優しくもない」


 やられたらやり返す以上に、やられる前にやるスタイルだ。

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