42話
「コホン、お騒がせしてすみません。依頼の持込でしょうか?」
あーやは西城に気付いていなかったのか、一度咳払いを交える。
分室への依頼は基本的に、ネットか投書での受付になっている。直接の持ち込みも対応はするのだが、緊急性などが無い限りその場で動くようなことはまず無い。それも大半の直接持込の理由が、誰にも知られたくない案件だから直接言いたいからなので、分室としてもそこまで重要視しているわけではないからである。
だが、稀に大きなもの――ギルド関連――がヒットするのが、直接持ち込みらしい。
「えぇ……そうだけどそれよりも先に、あたしはあんたに言いたいことがあるッ!」
「……………………ん?」
「いやあんたよあんたッ! 後ろ壁でしょ!? 後ろ振り向くとか何考えてんのよ! 昨日といい、どこまで人をコケにすれば気が済むのよ!」
キレのあるツッコミをありがとう、感動した。
「結崎君、何かしたのですか?」
「別に恨まれるような事は、何もしていないはずだが。あいつが昨日、自分は陰湿なイジメに遭ってるって泣きついてきたから、思わず蹴り返しただけだ」
「十分悪質です。というかあなたの行為がそもそもイジメです」
「お、上手い事言うな。座布団やろうか?」
「ちょっと待ちなさいよ! あたしの事無視して勝手に話を進めるな! というか昨日の話捏造してるんじゃないわよ! 誰があんたに泣きついたって!?」
「『あたしのこと、信じてよ』って、あんなに愛くるしく言ってきた昨日のお前は、一体どこに行ったんだぁ!」
「熱弁されても最初からそんなの存在し無いわよ! てかあんた気持ち悪い位に声真似上手いわねッ!」
声真似など潜入の基本だ。俺にかかれば異性の声真似もどうという事は無い。
「結崎くーん。そろそろ、真面目に話を進めようか」
「西城今日はどうしたんだ? 俺になんでも言ってみろ!」
「変わり身早ッ!」
「上からの命令には、尻尾を振って従うのが生きるコツだ」
室長の笑顔の裏に、怒気を感じた。元々腹の内が探り難い人物だけに、怒らせると面倒だ。一応今は上司ということなので、とりあえず命令には従っておく。
「話の前に場所を変えましょうか」
「なら隣の応接室でどうかな。今日は面談の予定も無いし、空いているよ」
「うむ、じゃあ頑張れ二人とも」
「「君も来なさい」」
「知ってた」
西城の依頼内容はまだ分からないが、昨日西城がらみの問題に関わった人間なら、今回の話の場にもいた方が、何かと進めやすいのは確かだろう。
というか、西城も俺の同席希望かよ。




