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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、助ける
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41話

 単調作業はその内容とやる人によって、メリットとデメリットがコロコロと変わる。慣れれば何も考えずに無心で集中出来るため、その集中に乗じて様々な思考を巡らせれば、瞑想のような有意義な時間になったりする。だがそれができない場合、単調作業でもそれなりの技術を求められるものだとすると、それは本当に苦行になりえてしまう。


 そう、例えば今。


「あぁもうダメ。やってられっかこんなの」


 束になった依頼書を放り投げ、椅子にふんぞり返る。


 今、俺の頭の中には複数の言語がありとあらゆる方向に飛び交い、とてもじゃないが有意義な思考の海へとダイブする事が出来ない。メールでの依頼なら翻訳サイトにぶち込んで一発なのだが、何故か手書きが多いのだ。誰か翻訳できる蒟蒻買ってきてくれ。


 というかそもそも俺が分室に入ったのは、こんな翻訳作業をするためではない。面倒臭くとも入ろうと決めたのは、多少なりとも刺激を求めたからだ。言語に限らず能力と言う物は、使わなければ劣化していく。自己の能力の向上と維持のためには、定期的に使用していくしかない。


 ギルド対策員である俺たちは、何かしらの緊急性のある通報などが起きた時のために、本部での待機が基本になっている。だがそこでもただボーっと待っているではなく、五千人の生徒から送られてくる依頼書の整理と言う地獄が待っているのだ。


「英語に関しては、私が扱っているではありませんか。後のドイツ語とフランス語とオランダ語とポルトガル語と中国語はお願いします」


「おかしくないか!? 比率、絶対におかしくないか!? なんで俺が五カ国もやってんだよ! おい周防いるか、中国語やれ!」


「周防君なら、畜産科から逃げ出した家畜の捕獲に行きました」


「え、何? ここ家畜なんているのか?」


「畜産の農業に、工業、商業、水産、経済、介護福祉、国際など一通りあります」


「ジーザス!」


 普通科だけだと思ったら、ここはとんだイカレた学校だった。道理で牧場や工場みたいな建物が校内に何棟かあるわけだ。全然興味なかったぜ。


「外国語なんてふざけんな! 俺は日本にいるんだ! 日本語を寄越せ!」


 半年前まで海外にいた事は棚上げし、隣のデスクの依頼書を一枚取り上げる。


「何々? 『現国の宮野先生と英語の笠見先生の関係が気になって、夜も寝られません! この関係を探ってください!』ってアホ、高校生の分際で大人の恋路に口出……どうしたあーや。顔色が悪いぞ」


「いえ、なんでもありません。きっと私の記憶違いです。本当に勘違いです」


「そう言われると余計に気になる。言ってみろ」


「宮野先生も笠見先生も…………………………………………男性です」


「ちょっと邪魔す――」


「アアァァアァアァァ――ッ! 何でこいつは、そんなもの依頼に出してんだよ!」


 俺もその知識は持っている。というのも、組織内でそのような派閥があり、有名だったからだ。もちろん俺は触れてはいない、俺は至ってノーマルだ本当だ(必死)。


 だがこの女子――筆跡から推測――は、何でまたそんな世界を覗こうとしているのか。しかも文面からは、凄いウキウキ具合が分かる形で絵文字がふんだんに使われてる始末だ。


「近頃そういう趣向の女性がいる、と聞いたことはあります」


「おかしい! 世の中間違ってる! 絶対に間違ってるぞー!」


 日本が怖い。確かに外国生活は長かったが、どこの世にも男の同性愛を趣向とする女子高校生なんて見たことが無い。割とマジでショックを受けてる俺がいるんだが。


「テンション上がってるところ悪いんだけど、依頼人に気付いている?」


「問題ない、ちゃんと把握している。だがそれよりも、優先しなければならないリアクションがここにあった」


「いつから君はリアクション芸人になったんだい……」


 室長に親指を立てて応え、先ほどリアクションの直前に部屋に入ってきた人物に目を向ける。それは今にも爆発しそうな鬼の形相でプルプル震えていらっしゃる、西城天理嬢だった。

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