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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、助ける
40/131

40話

「あれは一年生の西城天里ちゃん。彼女が取るに足らないモブ二人に怒ってるみたいだね」


 モブって言うな。あと取るに足らないとか、もはや人権侵害してんぞ。しかし、確かに良い言い方ではないが、その女子生徒に比べると他の二人は容姿に劣る印象がある。だがそれは少女の容姿が優れすぎているため、という意味だ。


 まず遠目から見て、体の線が美しいのが分かる。髪形の補正もあるだろうが、全体的にスラッとしていて、等身も高い。所謂モデル体系というものだ。次に容姿は、これは憤慨している状態のため細部は分からないが、それでも整っている事は一目で分かる。まだ幼さを感じさせるが、それも世の男の視線を集める大きな要因の一つだろう。


 物静かなあーやと、活発な成美さんを足して割ったような印象。万人受けする美貌の持ち主。仕事柄、容姿を武器にする女を何人も見てきた俺から見て、少女はそう見えた。


「西城天理。中学生の時にデビューした、今売り出し中のアイドルだよ。知らない?」


「俗世に疎くてな。因みに、英語でアイドルは怠けているって意味なんだぞ?」


「仕事が忙しくて、あんまり学園にいる事って無いんだけど、何かあったのかな?」


 あ、スルーですかそうですか。正式には偶像崇拝だがな、という二段構えだったのに。


「これは分室の案件じゃないのかな?」


「悪いが、時間外労働はやらないと死んだじいちゃんにたった今誓った」


 じいちゃんなんて会ったことすらないので、死んでいるのかどうかも知らないが。


「分室の規則に『いついかなる時でも学生のために奉仕すべし』ってあるよね?」


「外国暮らしが長かったから、日本語が読めないんだ」


「じゃあ分かったよ。雅紀呼ぶから」


「それはそれで面倒だな」


 後で「なにお前? あの程度の問題も処理できねぇの? プププッ!」とか調子に乗られたら腹パンでさえ生ぬるい。全裸で市中引き回し確定コースだ。


 天秤にかけた結果、さっさと目の前の問題を処理することにする。


「おいそこ、何かあったのか?」


 何食わぬ体で会話に入る。


「外野は――ッ!」


 口調がヒートアップしていた西城だが、俺がつけている分室のバッチを見ると、途端にバツの悪い表情をして顔を背けた。


 分室に入って分かったことだが、分室は問題を解決し学生に奉仕する組織ではあるが、学則に則るという制約が前提であるため、全てが生徒の望むまま、というわけにはいかない。特に言い争いの仲裁に関しては、第三者がしゃしゃり出て状況の裁定を行うため、反感を買いやすい。よってこの場での分室の登場は、あまり好ましいものではない。


「あぁちょうどよかった。来てくれてありがとうございます」


 だが西城にメンチを切られていた女子生徒たちは、俺の登場に安堵の表情を見せた。まぁさきほどの状況から、この二人が西城から何か問い詰められていた事は想像出来るが。


「何故か西城さんが凄く怒っていて、私たちもどうすれば良いのか分からなくて」


「何故かですって!? よくその口で言えたものね! あなたたちがやったくせに!」


「ですから、私たちは何もしていません。言いがかりは止めてください」


「……まずどういう状況なのか説明してくれ」


 このパターンは無駄に話をさせると面倒なため、直ぐに本題に入った方が良い。


「簡単よ! こいつらが私の靴をゴミ箱の中に捨てたのよ!」


 親の敵、とでも言うように西城は二人を睨む。


「何度も言っている通り、私たちは知りません。ただ近くで立ち話をしていただけで、そんな疑いをかけられるなんて酷いです」


 だがそれすらもひらりとかわされてしまう。冷静なのが二人組の方であるのは一目瞭然だ。西城には、今にも二人に飛び掛らんとする気迫が見れる。


 しかしこの状況、西城が二人にいちゃもんをつけるメリットが無い。特にアイドルと言う肩書きを持っている有名人ならば、なおさらこんな問題は起こそうとしないだろう。通りがかりの人間に言いがかりをつけるなんぞ、どこの不良だって話だ。


「あ~じゃあこっちの方。この二人がやったと言う根拠は?」


「そんなもの、いつもこいつらが私を目の敵にしているからよ! いい、これは今回が初めてじゃないのよ! もう何回もやられてるの! こっちはもう頭にきてるのよ!」


「と言ってるが?」


「そんな! 私たちは西城さんとは、良い友人だと思っています」


「あなたたち、この期に及んで!」


 西城が一歩足を踏み出すが、


「ここで手を出したら暴行容疑が増えて、お前の心証が一気に悪くなるぞ」


 という口添えで、西城は動きを止めた。


「何、あんたはそっちを信じる訳!?」


「少なくとも、感情的に怒鳴り散らす人間は、一般的には信じられないんじゃないか?」


 この一言が効いたのか、西城はムッとした顔で、今度は俺を標的にして睨み始めた。可愛いと言うよりは綺麗な顔立ちが、今は見る影も無い。


「本当に今回が何回目なのかどうかは知らないが、とりあえず今日は聴取だけだな」


 そして俺は改めて――非常に遺憾だが――双方から現場の状況を聞きだす事にした。

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