表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、遊ぶ
35/131

35話

「それでは改めて、よろしくお願いします。左手、でしたね?」


 始めてみるにこやかな顔で、あーやは左手を差し出してきた。元々整った容姿であり、微笑んでいる表情はとても綺麗に見える。


「その通りだ」


 差し出された左手同士で握手をする。


「いつもそんな表情してくれるなら、思わず惚れるところなんだけどな」


「それだけは絶対に止めてください、不愉快です」


「えぇ……」


 冗談にしては酷過ぎる拒絶じゃないですか?


「今のは冗談じゃないですよ、お兄ちゃん」


 と、そこで戻ってきた志保が、両手に抱えたお菓子を籠に入れていく。


 てか何そのでかいの、プリン? パッケに四百グラムとか書いてあるけど良いの? カロリーとかやばいよ? ちゃんと計算して飯作ってる俺の努力ガン無視? というかこんなの喰ってて体重気にするとか、なんか違くない?


「志保、冗談は止せ」


「私が冗談を言うように思えますか?」


 思えねえよ。お前が何よりも嘘が嫌いな事は、嫌って程知ってるよ。だからこそフォローの仕方が間違ってんだよ。お兄ちゃんが馬鹿にされたのに肯定するんじゃない。それと、今のはプリンに対しても言ってるんだぞ。


「おや?」


 そこであーやが志保を見て目を見開く。ここは紹介でもした方が良いか。


「あぁこちらは――」


「お久しぶりです絢さん!」


「お久しぶりです志保さん」


 そう言って二人は丁寧にお辞儀をしあう。


「どうしましたお兄ちゃん?」


 いや、どうもこうも……ねぇよ。


「……お前ら、知り合いなのか?」


「はい。でもこの場合、どう説明すれば良いんでしょうか?」


 助け舟を期待するように、志保があーやを見る。


「私の父と、志保さんのお母様が同じ職場に勤めていまして、私は父に会いに、志保さんはお母様に連れられてきたことがあったので、幼い頃から交流がありました」


「そういうことです! 驚きましたか?」


「……あぁ驚いたよ」


 だが志保の期待していることに、ではない。あの母親と同じ職場、それはつまりあーやの父も桜田門の関係者ということになり、そしてなにより君塚という名前。


「じゃあもしかして君塚っていうと……」


「警視総監の君塚源三は私の父です」


「…………………………そうか」


 やっぱり警察――天敵――の長の娘だったのかよッ!? なるほど、俺があーやに苦手意識を抱いているのも、身内に警察の人間がいてその雰囲気をあーやも身に纏っているからか。


 君塚源三には一度会ったことがある。大柄で豪快な親父、だがそれに似合わず頭の回転も速く、言葉の一つ一つが的確なのだ。流石外見はどうであれキャリア組である。首根っこを掴まえられた状態での面会だったことも踏まえて、あまり良い印象は無い。


「じゃあ将来の進路は警察か?」


「えぇ幼い頃からそう考えています」


「絢さんはお母さんに憧れてるんですよね!」


「はい、目標のお方です。護身用の合気道では、いつもご指導を受けています」


 あの母親に憧れている? 嘘だろ? あの無駄にプレッシャーかけてくる、無駄に頭の回る正義感マックス猪突猛進の母親に? だがそうだとすれば、初めて会った時のあーやの雰囲気があの母親に似ていたことも合点がいく。あの母親は、あーやの上位互換か。


 というか、そんな人物とグラウクスだった俺をセットにしていいのか。娘とはいえ、俺のことが伝わっているわけではないだろう。これは知っている室長の方がおかしい。


 だとすれば、この正義感丸出しの熱血正直者は俺が犯罪者であると分かれば、昼間のイカサマを指摘するのと同じように、俺は排除しようとするだろう。保護観察処分とはいえ、これまで俺が行ってきたことと、それを隠してのうのうと生活してきた俺を、騙していたと罵るかもしれない。


 あーやの勘は良い線をいっている。それがあの母親をモデルとしているのなら、俺の方こそ気を引き締める必要があるのではないか。


「志織さんの息子、というわけではありませんが、結崎君からは多くを学ぶ事ができそうです。人間的にはあまり目標にしたくはありませんが、これからよろしくお願いします」


 真摯な目(+毒舌)を向けるあーやに、俺は反応しきれず苦笑いを浮かべる。

あーやにとって俺という存在は目標とする人物の息子で、頭の切れる後輩なのだろう。


 それも間違いではない。


 だが――犯罪者という、もっとも忌むべき存在でもあることを、あーやはまだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ