33話
「はい、これで俺の三連勝。いやぁ危なかったわ。一時はどうなることかと思ったぜ」
すっきりした表情で周防を見ると、周防はとても形容できないほどに崩れた表情で俺を睨んでいた。
「お前、カードを確認した時に順番に細工しやがったなッ!?」
「言いがかりも止してくれ。俺がそんなことを? 他に見た奴はいないのか?」
「ふざけんな! めくるカードが分かってるなんて、普通ありえねえんだよ!」
「どうやってそれ証明すんだよ。俺の超スーパー、ウルトラハイパーな運と勘が冴えただけだろ。う~ん、次のカードはスペードの3かな? あ、残念クラブの6だ。全然ちげぇわ。ハッハッハ」
「てめぇッ!?」
「それに、カードの順番を細工したって言ったが、俺がカードを見たのは一瞬だぞ? シャッフルだってしたんだ。そんな状況でカードの順番を正確に覚えて、かつ順番道理に並び替えるなんて芸当、普通できると思うか?」
ま、出来るんだけどな。
あーやの指摘通り、周防はマッキングを行っていた。素人には判断できない高度な域に達しているテクニックであり、何事もなければ周防の勝ちは必然であっただろう。
だが俺はそれ以上のテクニックで完全に状況を覆した。カードの順番を記憶したままシャッフルして思い通りに並び替えるなど、もはや手馴れている。念のため仕込んでおいたものだが、やはり準備はしておくものだ。
イカサマをイカサマで返される。これはこの上ない屈辱だ。
だからこそ周防は認められない。俺が自分以上の技術を持っているなど、認められるわけが無い。周防にできる事は、あくまで確率論で負けた、という敗北宣言だけである。
周防は何かを言おうと大きく口を開けるが、しかしその言葉を何とか飲み込んだ。どうやらこの状況でわめき続けることが他ならぬ『恥』であると理解する程度には、まだ頭が回るようだ。
「良いだろう……今回はお前の運がよかった。お前の勝ちだ。認めてやる」
「別に言いたく無いなら言わなくて良いぞ?」
「うるせぇ! こいつはけじめだけじめ!」
ぶっきらぼうに言うと周防は席を立ち、勝手に部屋を出て行ってしまった。少なからずプライドが傷ついたのだろう、まぁいい放っておこう。
それより、女子バスケ部のギルドの件に加え今回の件といい、どうやらこの学園には面白いことを考える輩がいるようだ。
今までの二ヶ月では知らなかった、この学園の本質、特異性。なるほど、こりゃ確かに退屈はしない。ルーブックキューブをやるよりは、マシな時間を過ごせそうだ。
「それじゃあようこそ結崎君、学芸特殊分室へ」
まわりが納得せざるを得ない空気の中でここぞとばかりに室長は声を上げて、右手を差し出してきた。
「あ~悪いが、握手なら左手で頼む」
「あれ、右利きだよね?」
「他人に利き手を握られるのが嫌なんだよ」
「なるほど。それじゃあ改めて、ようこそ分室へ」
そう言って差し出された左手を、俺は渋々握り返した。




