32話
「その潔さを、どっかの誰かにも見習って欲しいもんだな」
ケラケラと笑いながら、周防はカードをそれぞれ二枚ずつ配っていく。
あーやが睨むように周防の手先を見ているが、あと一回勝てば終わりの状況で、わざわざイカサマを行うメリットはない。所詮は確率論。あと三回勝たなければいけない俺よりは、周防のほうが断然有利な立場にいる。
二連続で周防が勝ったからと言って、当然次に俺が二連続で勝つなんて保証はない。コイントスで五回連続表だったとしても、六回目の表裏は結局は二分の一でしかない。
まぁ投げられたのが‘何の仕掛けも無いコイン’だったならばの話だが。
「あぁちょっと待て」
周防が自分のカードをめくろうとしたところで、それを中断させる。
「なんだ? やっぱりノーカンにするか?」
「いやそうじゃない。そのカードは、めくるだけ無駄だ」
「は? 何言ってんだお前? 親の俺がカード見せないで一体どうす――」
「ならもっと分かりやすく言ってやろう。この勝負、既にあんたの負けだ」
俺は配られた二枚のカードを表にする。ダイヤのJとA、ブラックジャックだ。
「なッ!」
「因みにあんたのはハートの8とスペードの9だ」
呆気に取られている周防の手札をめくる。言った通りのカードが、表になって現れる。
「はいじゃあこれでお仕舞い。次だ」
さっさとカードを掃き、場を綺麗にする。
「お前……一体何をした?」
しかし周防はカードを配らずに、俺を睨んでいた。
「何って……俺が何かしたように見えるのか?」
「何かしなけりゃ、めくる前のカードが分かるなんてありえないだろうが!」
周防は力強く机に拳を叩き付けた。周りが驚く中、その仕草に俺は思わず肩を竦めた。
「おい周防、なにどさくさに紛れてデッキの一番目と三番目を入れ替えてんだよ。それじゃあ、俺がハートの9とクラブのAになっちまうだろ?」
「ッ!」
俺の言葉に周防は面白いように動揺を見せた。これはもっと言ってしまおうか。
「まぁ、それでもお前はクラブのJとハートの8だから、どうせ負けてるんだけどな」
いち早く反応したあーやは唖然としている周防からデッキをひったくり、上から四枚を引いて順番に場に出していく。
ハートの9・クラブのA・クラブのJ・ハートの8
周りから、先ほどとは違うどよめきが流れた。
「次も予言しよう。俺がスペードのJとA。周防は2,3,4,5,6で20だ」
同様にあーやがカードを引き、俺の言葉どおりのカードが場に並ぶ。




