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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、遊ぶ
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31話

「それじゃあゲームスタートだ」


 宣言と同時に周防がめくったカードは、クラブのQだった。


「確認させてもらうぞ」


 そう言って周防は裏になっているもう一枚を、俺に見えないようにめくる。

親が始めの二枚でブラックジャックが完成している場合、プレイヤーには最初から勝ち目は無い。その無駄を確認するための作業だ。


「安心しろ、ブラックジャックにはなっていない」


 笑みを零す周防だが、それを無視して俺は配られた二枚のカードをめくる。ダイヤの9とスペードの7。合わせて16、一番来て欲しくない数字だ。親に17以上になるまで引き続けるルールがある以上、16では親のバーストでしか勝ちが見込めない。また21に近いが故に、自身のバーストの危険も十分にある。


 俺はヒットを選択し、新たに加えられたカードはハートの4。合計20、上出来な数字だ。これで周防が21にならなければ、俺は負けることが無い。


「じゃあこっちをめくらせてもらうぞ」


 周防が自身の手札のもう一枚をめくる。ダイヤの3。合計が17未満のため、ルールに乗っ取り周防は山札からもう一枚を引き、一度テーブルに置いてからカードをめくった。


 出た数字は――スペードの8。合計21で、俺の負けだ。周りから感嘆の声が漏れた。


「まず俺の一本だな」


 周防は満足気に場に出たカードを回収して、脇に寄せる。そして意気揚々と新たにカードを配っていく。次に配られたカードの合計は19。ステイを選択した俺に対して、周防の合計は20。俺の二連敗となった。


「確率とはいえ、流石に次は負けるだろうな」


 周防の余裕たっぷりな嫌味に、周囲の何人かが同調するように笑う。確かにブラックジャックで二連勝する確率なんて物は普通にある。周防の言うとおり何もしていなければ、カードの組み合わせは運という名の確率なのだ。


ただ、俺の一つ上の数字ぴったりを、二連続で出せるかどうかは怪しいところだが。


「ちょっと待ってください」


 周防が三ゲーム目を始めようとした時、あーやが声を上げた。


「なんだ君塚? もしかしてここまで来て止めろってのか?」


「違います。周防君、あなた先ほどからイカサマをしていますね? 先ほどから三枚目をテーブルに置いてめくる瞬間に、カードをすり替えています。手をかざした時にすり替える、確かマッキングと呼ばれるテクニックだったはずです」


 あーやの口調には怒気が篭っていた。冷静に怒っている。不正に厳格そうなのは知っていたが、これは本気で怒っているようだった。


「言いがかりも止してくれ。俺がそんなことを? 他に見た奴はいないのか?」


 周防の問いかけに、あーや以外首を縦に振るものはいなかった。


「見たと言っているのはお前だけだ、君塚。お前が解けなかったギルドの仕業をこいつが暴いたからって、肩入れするのは公平じゃないんじゃないか?」


「それは今の件とはまったく関係ないでしょう?」


「どうだかな? お前の面子としても、ここで負けてもらっちゃ困るのは分かる。でもだからって、まさかお前が嘘をつくなんて俺も信じたくはないんだがな」


「私は嘘などついていません!」


 ついに声を荒げたあーやに、周防は分かりやすくため息を吐いた。不正の追求に、周囲の人間にどよめきが走る。だがあーや以外イカサマを指摘していない以上、場の空気は周防に傾いている。


「じゃあ分かった。お前がそこまで言うのなら、今までの二回はノーカウントにしようじゃないか。それでまた最初から始める。それでいいだろ?」


 譲歩に見せかけた論点のすり替えだ。これでは次の三本勝負で俺が勝ったとしても、周防に情けをかけられたことになる。それは負けても同じことで、結局俺はこの勝負に勝とうが負けようが、どちらが恥をかくか、という本質からして負けが確実になってしまう。


「私が言いたいのはそういう事ではありません!」


 よって、あーやが更に憤慨するのは当然だ。だが、これはイカサマをその場で指摘しなかったあーやの失策だ。後手に回った分、勝ち目はない。イカサマなど、その場で咎められなければやってしまった者勝ちだ。


「じゃあどうすれば良いんだ? 結崎、君塚はこう言ってるがお前はどうして欲しい?」


「いや、別に何もしなくて良いが」


「結崎君!? 彼は……」


「別にどうでもいい。さっさと三ゲーム目を始めよう」


 今度は俺に食いついてきたが、それを完全に無視する。あーやの味方がいない以上、この話題はこれ以上続けても意味が無い。

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