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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、探る
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29話

 翌朝、いくらか早めに教室へと入った俺は、思考の柔軟性と指先のトレーニングを兼ねたルービックキューブを弄んでいた。とはいえこんなもので自分の能力が維持されるとは思っていなし、ただの暇つぶしである。それも最近飽きてきた。


「あ、あの!」


 色が揃っている状態から、逆にバラバラの配置へと変える自己記録を更新(ドヤ顔)した時、教室内で誰とも会話がなかった俺が声をかけられた。相手は高坂である。


「あの、えっと……」


 話しかけたはいいが上手く言葉が出てこないのか、高坂はもじもじしているだけだ。


「女バスに何のお咎めも無くて良かったな」


 仕方なく、俺の方から話題を提供する。


「あ、うん。部停も無いし、少し注意されるだけだったよ。それで、部長から聞いたんだけど、結崎君に凄い迷惑かけちゃったみたいで、それを謝りたくて」


 少し高坂の言葉の意味を理解するのに時間がかかった。


「……お前はどこまで聞いたんだ?」


「おそらく、全部。本当はあたしが暗証番号間違えて、それを部長が庇おうとしてくれて、結崎君はそれに気付いたけど見逃してくれたって。本当は言っちゃいけないんだけど、あたしのミスを自覚して欲しいって部長が」


 ここで何も高坂に伝えずにまた問題が起きてしまえば、今度はごまかしが効かない。再発防止のために、高坂は事情を知るべきという部長の考えは正しい。


 守秘する必要はあるが、これは許容範囲内か。


「それで、あの……ごめんなさい。あたしのせいで迷惑をかけちゃって」


 俺としては中々楽しい経験が出来たので、別に頭下げられる必要は無いんだが。


「面倒事の処理が分室の仕事だ。迷惑どころか、仕事をくれてありがとうだよ」


 当たり障りのない事を言いつつ、俺は席を立った。


 正直高坂の言う迷惑ならば、今こうして話されている方が勝っている。嫌悪というわけではない。謝罪、感謝されるということに俺自身どう受け止めていいかわからないのだ。


「あ、あ、ありがとう!」


 背中越しに聞こえる感謝の言葉から逃げるように、俺は教室を出て行った。


 仕事が上手くいってもそれが当然であり、ミスをすればきつい懲罰が待っていた。俺の仕事に対する親父の対応はいつもそのどちらかで、よくやったなどという賞賛の言葉はほとんどかけられたことが無い。


 それがましてや感謝の言葉など、俺の中に得体の知れない何かがうごめいていた。

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