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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、探る
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27話

「と、そこまでが大体二十年前までの話だ」


「二十年前?」


 俺が生まれていないどころか、朱乃でさえ十歳前半の時代じゃないか。


「二十年前、実質ギルドが我が物顔で仕切っていた学園の中で、一つの対抗勢力が生まれた。それが学芸特殊分室。学生の学生による学生のための奉仕を目的とした組織」


「そして、ギルドに対抗する組織ってわけか」


 ギルドに変わり、学生の問題を処理する組織があれば、ギルドの影響力が軽減される。だから分室は教師たちに代わり、学生の問題を処理している。けして教師側が放棄した訳ではなく、教師には手が出せない案件だった。


「だがそれに関して経営陣は何も言ってこなかったのか?」


「元々ギルドは非公式だ。実質ギルドの仕事を奪っているが、存在しない組織の仕事を奪ったからって誰が文句を言える? それに分室はそもそも学園側が作ったのではなく、当時の学園の体制に反旗を翻した、学生の有志によって発足した組織だ。生徒の積極的なボランティア精神を潰しにかかれば、そりゃ教育機関として終わってるだろ」


「ほう、そんな粋の良い無謀な輩がいたのか」


「何言ってる。初代室長にして創設者はお前の母親だぞ」


 何やってんだよあの母親! 愚直に生きるにも程があるだろ。クソ真面目だとは思っていたが、反体制派のトップに君臨するとか無駄すぎる意思と行動力だ。


 いや、あの母親ならやりかねないか。


「そんなわけで分室が発足し、今までギルドを頼るしかなかった学生たちは、こぞって分室を頼り始め、ギルドの影響力は全盛期に比べ、格段に小さくなっていった」


 今まで少なく無い報酬を払っていたものが、無償になったのだ。誰もが食いつく。


 だが、すべてが上手くいったわけではないだろう。


「それでもギルドは無くなる事はなかった。逆にギルドの貴重性が増した」


「そうだ。分室の登場で合法な案件は分室に、違法な案件がギルドへと流れた。その結果、ギルドが関与した事件はより悪質性を増すことになった。それからギルドは以前にも増して、悪名高い組織になったんだよ」


 だから白鳥部長は、ギルドを頼ったと公言することが出来なかったというわけか。ギルドを頼ったという事は、それだけで印象が悪くなる。扱う案件の性質上、ギルドと関わっていることを口止めする契約、もしくは何かしらの脅迫が存在する可能性も十分ある。


 俺がギルドの人間ならそうする。分室という対抗組織が確立した状態で、むやみに組織の情報を掴ませるような真似は絶対にしない。


「なるほど、だから研修か」


 室長が言っていた分室に入るための条件。気になったのが、研修を行ってまで問題の処理能力を重視するのか、である。確かに問題の処理を行うには高い能力を持った者が最適だが、その能力に満たないからといって、その助力を無駄にする必要も無い。人が多いに越したことはなく、人海戦術で補える事は意外と多い。


 それでも研修を置く理由は、ギルドに呑まれない人間かどうか見極めるということだ。また、ギルドは分室を目の敵にし、内情を探るためにスパイでも潜り込ませたい。だからこそ分室は研修を行い、ギルドに対抗できる戦力を厳選し、ギルドが関与していると思しきスパイを排除。組織の強化と防衛を行っているのだ。


「学生風情が一丁前に、組織戦を繰り広げているってわけか」


「そう。学生であろうと、自分たちの居場所を守るのに必死なんだよ。んで、これからはあんたもその組織戦に加わる訳だ」


 同時に、朱乃はテーブルに小さなバッチを置いた。学芸特殊分室と刻まれていた。


「……室員三人の認証が必要なんじゃなかったのか?」


「その三人の認証が取れたからコレがここにあんだよ」


「室長とあーやと後誰だよ?」


「もう一人は周防って二年だ」


「周防って成美さんか? 成美さんは新聞部だろ?」


「その双子の兄の周防雅紀。あいつら双子なんだよ」


 そういえば自己紹介の時、わざわざ下の名前で呼ぶことを要求していた。それはつまり、分室にいる双子の兄と呼び名が被ることを懸念してのことだったのか。


「だとしても、会った事も無い人間が何で俺を認めるんだよ?」


「それは影宮がお前を認めたからだろう」


「は? 何でそこで室長が出てくるんだ?」


「簡単だ。周防雅紀にとって、影宮識也は憧れと同時に目標なんだ。その影宮がお前を認めたって事は、周防もお前を認めるしか無いって事だ」


「普通に考えたら、逆に反発されそうな気がするんだが?」


 憧れの存在に近づく正体不明の輩、普通に考えて好意を抱くか疑問ではある。


「当然周防も表向きお前を認めてはいるが、きっと裏ではお前の化けの皮を剥がそうとしてるんじゃないのか。まぁ実際その辺は本人と会ってから確認してみろ。そのくらいの人を見る目は持っているだろ」


 愚問だな。それこそが俺の武器なのだから。


「それでいい。今後お前はギルド対策員という役職で分室に所属してもらう。あっちの犯罪を暴き、取り締まれってことだ。去年影宮がやっていた。お前なら適職だろ?」


「同じ穴のムジナって言いたいのか?」


 犯罪者が犯罪者を取り締まる。かつてペンタゴンにクラッキングをした高校生が、後にサイバーテロ対策の組織にスカウトされた件など、罪を犯す側だったからこそ分かるものも存在するわけで、理に適っているのは確かだ。


 俺は断った時に発生するであろう、自宅での悲惨な扱いに関する自己保身と、面白みがあるものの、面倒臭さが余りある分室のどちらを取るか考えた結果、首を縦に振った。

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