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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、探る
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25話

「んで、志保が散らかした跡を見たあんたは、それを泥棒が入ったと勘違いしたと?」


「その通り……らしい」


 正面に座る朱乃は缶ビールを開けて、それを一気に煽る。てか右頬痛ぇ。


「あんた馬鹿が極まってるわね」


「だが不測の事態に備えるという点では、俺の行動にも」


「一考の余地もねぇよ、アホ」


 そこまで一方的に、そして頭ごなしに否定されることでは……あるか。


 事実、朱乃が言った様にリビングの惨状は志保が起こしたものだ。俺の帰りが遅れたことで、何を血迷ったのか、あれほどやるなと言っておいた家事に手を出したらしい。


 洗濯物を取り込んだり、散らばっていた本の整理などをしたのは良いが、調子に乗って料理に手を伸ばした結果、キッチンを悲惨な状態へと変貌させた。そしてキッチンの有様に今更驚いて、洗濯籠に足を引っ掛けて衣服をぶちまけ、その拍子で片付けた本をまた散らかしたらしい。


 玄関の散らかりは、帰宅した時に電話が鳴っていたらしく、それを急いで取ろうと靴を脱いだ時にバランスを崩して転倒。急いで電話を取りに行ったはいいが、そのまま玄関を放置してしまったとのこと。その後キッチン事件を起こし、冷静になろうと風呂に入ったところで、俺がちょうど帰宅したということだ。その後は知っての通り。


「それであんたのラッキースケベ的な展開で、志保が部屋に引き篭もってるのか」


「それに関しては弁明の余地も無い」


「当たり前だ。いくらあんたらが兄妹だと言っても、半年前までは顔も知らなかったんだからな。あの子もやっと慣れてきたってところでこれかよ。姉さんになんて言えば良いんだよ私は!」


「それに関しては本当に申し訳なく思っている」


 半年前にこの家を訪れた時、俺と志保は再会とは言い難い出会いをした。何しろ志保は兄である俺の存在を、直前までまったく知らなかったのだ。一歳違いではあるが、志保が生まれたばかりの頃に親父が俺を連れて失踪したため、俺はそれとなく覚えていても、志保には俺に関する記憶が一切なく、あの母親も話そうとしなかったと言う。


 志保は本当にあのクソ親父と、クソ真面目な母親の子供なのか疑いたくなるほど繊細な心の持ち主で、よく人見知りをする。だからこそ突然発生した兄という存在に戸惑い、俺と口を利くのに一ヶ月以上の時間を必要とした。


 今でも俺の呼び方が不安定であり、本人は頑張って「お兄ちゃん」と呼ぼうとしているのだが、先ほどのように「流斗さん」と他人行儀に呼ばれることの方が多い。


 それに対し俺の方は最初から緊張することもなく、「これが君の生き別れの妹だ」に「あっそ」と素っ気無く返したほどだ。妹がいる事は親父から聞いていたし、面倒臭い状況に放り出されることも慣れているため、別段慌てることもない。


 ようは兄役を演じれば良いというだけ。その意味で俺は、本当に志保と仲良くしていこうとは思っていない。所詮この生活もいつまで続くか分からないのだから。


「あとでちゃんとフォローしなさいよ」


「任せろ。女のご機嫌取りなら得意分野だ。親父に仕込まれたからな」


「我が義兄と甥ながらクズ過ぎるな。てか妹相手にその口なくねぇか?」


 俺にとっては生徒相手にその三下のチンピラみたいな口調なくねぇ? である。


「それより朱乃、聞きたいことがある」


「私の話聞いてんのか? てか嫌だね、あんたのその態度が気に―」


「おっとこんなところからブリー・ド・モーが」


 そう言って俺は足元の鞄から急ごしらえのブリーチーズの箱を取り出す。朱乃はブリーチーズ愛好家であり、酒のつまみと言われればブリーと答えるほど溺愛している。


 と、そこで急に飛び掛ってきた朱乃の手から、箱をヒョイっと逃す。


「……フランスパンは?」


「既に加熱しているし、粗引きのブラックペッパーもここにある」


 レンジを指差した後、テーブルにブラックペッパーが入った筒を乗せる。


 しばらくした後、朱乃はわざとらしく舌打ちをする。買収完了。

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