表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、探る
23/131

23話

 自宅のあるマンションにたどり着いたのは七時を過ぎた頃だった。いつもならば調理が終盤、もしくは終わっている時間である。これは出来合いの物で何とか誤魔化すしかないなぁ、と考えながらエレベーターに乗り込んだ。


 六階で降り、突き当りの扉まで進む。その間も考える事は夕食をどう乗り切るかだ。まだ朱乃は帰っていないだろう。それまでに何とかしなければ、またガミガミと言われる。


 取っ手を回し、玄関の扉を僅かに開けたところで、違和感を覚えて停止する。


 ちょっと待て、俺は鍵を開けていない。なのに何故鍵が開いている?


 このマンションはオートロックで住人以外入る事は難しく、何よりこの家の玄関の鍵は俺監修の下、ちょっとやそっとでピッキングできるような作りではない。


 だが実際に鍵は開錠されている。まさか破られたと言うのなら、グラウクスの名に泥を塗ることになる。そればかりは俺のプライドが済まない。


 一体この扉の奥には何が待ち構えているのか。意を決して玄開を開き、中を確認する。


「――ッ!?」


 そして言葉を失った。


 玄関口。乱雑に、そして放り投げ出されたかのように散らばっている靴の数々。ひっくり返っているものもあれば、左右の靴が別々の方向に吹っ飛んでいるのも見られる。明らかに平静とは言えない。真っ先に考え付いたのが、玄関先での侵入者との取っ組み合いだ。


 まさか組織の奴らが!?


 背筋に冷たいものが走り、直ぐに靴を脱いでリビングへと向かう。


 そこにはバラバラに広げられた洗濯物、床に散らばっている多数の書物。開けっ放しの食品棚に、テーブルは斜めにズレて椅子は明後日の方向に向いている。


 ぱっと見渡しただけでもただ事ではない光景だった。


 特にキッチン周りは酷い。お前は過去に食中毒にでも当たったのか、と問いただしたくなるほどにめった刺しに切り刻まれ、見るも無残な食品の山。均一性なんてものはなく、切断の仕方から正気の沙汰とは思えない。食べられない訳ではないだろうが、もはや縁起が悪すぎて手を出したくない。


 他にもぶちまけられた調味料に放り出された調理器具など、キッチンの悲惨さは群を抜いていた。一体キッチンに何の恨みがあると言うんだ。


 だが何故キッチンを? そんなところに金目の物など置いている家庭がはたして日本で何件あるのか。狙うのなら個室にある化粧箱やら戸棚だろうし、何よりこの家にはリビングに如何にもな棚があり、通帳やら届印やらがまとめて保管されている。


 別々に管理しろといくら言っても朱乃が用心しなかったことで、諦め加減で中を確認すると、何故か通帳も届印もしっかりとしまわれていた。ただの物取りではない事は確定だ。


 そう思った時、玄関の方向で扉の開閉音が聞こえた。


 しまった! リビングの惨状は罠か。犯人はまだ家の中におり、玄関手前の洗面室で待機。俺がリビングに気を取られているうちに逃走、ということか。失態だ。紛れも無い俺の落ち度だ。既に犯人がいないと決め込み、注意が散漫していた。舌打ちを交え、リビングから玄関へと飛び出す。既に出て行った後か、玄関は硬く閉ざされている。逃がすか!


 玄関に手をかけた俺は、しかし開けることはなかった。直ぐ横の扉の向こうから何かが動く音と人の気配を感じ、動きを止めたのだ。扉の先は洗面室だ。


 まさかまだここにいるというのか? 


 そんな疑問が頭を過ぎり、後を追うよりも俺は洗面室を先に確認することにした。押し戸であり、勢いよく飛び込める。呼吸を整えた後、意を決して洗面室に飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ