22話
「あーやも気付いていたらどうしようかと思ったが、実際に俺だけしか見抜けなかったんだ、それを俺がどうしようと勝手だろ? まぁここでそれを無視する程の強情さが、あんたにあるかは知らないがな」
このタイプの人間は例えそれが正義であろうが、他人の手柄を平気で掻っ攫うことができない。他人を蹴落として自分の評価を挙げるのは、自分の中の正義心が許さないのだ。
「……いいでしょう。分かりました、この件に関しては私も他言しません」
どうやら完全に嫌われたようで、一層きつい視線が俺に向けられる。まぁ元々仲良くやっていけるとは思ってなかったが。
「えっと、本当に何も無しなのかな? これで実はダメでしたってオチないよね?」
「分室の方には処分保留で提出しましたし、私たちもそれを変えるつもりはありません。これで良いんですね?」
念を押すように確認してくるあーやに、俺は頷きを返す。
「ふぁぁ~。安心したよ」
白鳥部長は緊張の糸が一気に切れたのか、全身の力を抜きぐだ~っと体を前に倒した。この巨大な学園の部の長として、背負うものが大きかったのだろう。インターハイ前とはいえ、古くからの伝統と強豪校という看板は、けして軽いものでは無いはずだ。
「それにしてもよくあんな仕掛けが思いついたな。暗証番号が変わったことに気付いてからそう時間も無かっただろうに」
先ほども言ったがこの仕掛けは単純ではあるが、見抜こうとするのは難しい。人間は誰しも「この人がそんなことするはずが無いだろう」と無意識を考えている。大胆だからこそ騙される。マジックの定番と言えば定番である。
「あぁ……それはね……」
何故だろうか、そこで白鳥部長は言葉を濁す。
「……なるほど、そういうことですか」
んで、あーやさん。何であなたは納得してるんですか?
「これを説明するのは少し時間がかかってしまいます」
俺の心情でも読み取ったかのように、的確な言葉が帰ってくる。何がなんだか分からないが、口に出せないという事は、けして良いものではないのだろう。
妙な空気が流れ、沈黙が場を支配しきったところであーやが重い口を開いた。
「簡単に言ってしまうと、この学園には問題を解決する私たち分室とは対極に、問題を引き起こす組織が存在していると言うことです」




