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第8話

「愛莉がやったんでしょ!?」


 知佳の大声に周りの空気が固まった。名前を呼ばれた私にみんなの目線が集まる。


 今年、弓道部は11年連続での団体戦インターハイ出場を決めた。惜しくも個人戦は敗れたが、先輩から受け継がれてきた流れを崩さずに済んだことに私たち3年生は安堵した。


 私は2年生の秋に競技者ではなく、マネージャーに転向した。特待生で入学してくるのが多い中、初心者でもその時期まで食らいついたのは、むしろ自分を褒めるところだと思っている。


 顧問の先生に説得され、マネージャーとして残ることになり、それ以降はみんなのサポートに回っていた。


 人を助けることは好きだったが、進路が漠然としていた私にとって、選手の体のケアをするスポーツトレーナーに興味が湧いた。


 スポーツをしていれば常に体のどこかしらに故障は抱えてしまう。私自身いくらケアをしても背中の違和感は残り続けた。


 この立場になって人を観察していたら、何となくみんなの体の状況が分かるようになってきた。


 触らせてもらい、適切なケアを一緒に考える時間は、自分も役に立っているんだと言う充実感を味わえた。


 だがインターハイを週明けに控えた先日、弓道部の部室が荒らされてしまう事件が起きた。


 手が届かなそうな棚の上にあった箱の中身も確認したのか、部屋中に色々な物が散らばっていた部室は、私が3年間使ってきた物にはとても見えなかった。


 貴重なものはなかったし、歴代の賞状なども無事は無事で、なくなったものはなかった。


 探していた時に踏んだり乗っかったりしたのか、競技で使う弓矢が何本か折られたり、歪んだりしていた。


 最近噂のファントムかと思ったけど、それはなんか種類が違うって新聞部の友達から聞いた。


 窃盗かただの悪戯か。鍵は壊されておらず、未施錠を疑われたたりもして、表立った被害がないということで終わってしまった。


 でも弓道部としては得体の知れない存在に狙われた、という不気味さは気持ち悪かった。


 誰が、なんのために?


 道具自体は学園側が補填してくれることになったが、いざ団結しようと言う時に水を刺され、部の空気は重かった。

 

 だから今回も私に何ができるか、頑張って考えようとしていたところで、知佳に突然怒鳴られた。


「違う! 私じゃないよ!」


 私がやっていないことは私が1番よく分かっている。でも突然の言いがかりと、知佳の大きな声につられて、私の声も大きくなってしまった。


 最後の最後に団体戦のメンバーに滑り込んだ知佳としては、せっかくの舞台を納得のいく形で迎えたかったのだろう。


 中学時代から実力者だった知佳にして見れば、念願の全国大会なのだ。地元出身ということもあり、何度か中学時代の同級生と話している姿を見たことがある。


 でもインターハイ出場を決めてすぐ、手首を怪我していることに私が気づいた時も、「迷惑はかけたくない」と言って、黙っていることを約束された。


 知佳の怪我は私しか気づいていない。彼女のケアが自分の仕事だ、とも思っていた。


 なのに突然知佳は私を疑った。何が起きたのか分からない。


「ちょっと、知佳。そういうのはやめて」


 部長の梓が止めに入ってくれる。梓は団体戦の補欠選手ではあるが、部の誰からも信頼されている。何か問題が起きた時も、1番冷静で少し憧れている。


「でも梓、部室が荒らされた時にミーティングに参加してなかったのは愛莉だけなのよ」


 ドキリ。漫画だったらそんなオノマトペが書かれていると思う。


 部室が荒らされていた時、急なミーティングが入った。本当はオフだったはずなので、団体戦の選手のみの参加ということになった。


 3年生では私だけフリーになるので、周りが気を利かせて誘ってくれたのだが、私は私としてやりたいことがあったので断ってしまった。


 確かにその時間、私の行動は誰にも分からない。むしろ私が誰にも言っていない。


 アイドル専攻の年下の男の子に夢中なんて、自分だけの秘密だった。


 部活で忙しく、なかなか参加できなかったケルベロスのライブに行けることが分かった時は声にならない叫びをあげた。


 急に入ったミーティングも選手だけでいいって話だったから、「それならいいかな」って思った。多少の罪悪感はあったけど、すぐに帰ってくれば誰にも分からない。


「そうかもしれないけど、愛莉を疑うのはよくないよ」


「そういう梓だって、寮長に愛莉のこと確認してたでしょ?」


 え、何それ?


「違うの愛莉! それはただの部員の動きを確認したくて聞いてただけ! 愛莉だけを聞いたわけじゃないの!」


 聞こえているはずなのに梓の声が耳に入ってこない。


 確かに寮を出る時、姿は見られている。特に行き先を言っていたわけでもない。


 それでもただの外出じゃないの?

 え、それだけで疑う?

 私を?

 なんで?

 誰にも言わなかったから?

 みんなより自分を優先したから?

 私を信じてくれていなかったの?


「言いなさいよ。あんたが何をやってたのか?」


 詰めるように知佳が聞いてくる。


「自分がやってないって言うのなら、どこで何やっていたのか言いなさいよ」


「それは……」


 言い淀んでしまい、しまったと思った。ここで隠そうとすれば、余計な疑惑を持たれてしまう。何かを隠していると疑われる。


 なぜ「ケルベロスのライブを見に行ってた」と直ぐに言えなかったのか。


 一度言うタイミングを外すと、余計いいづらくなる。


「ほら言えない! あんたなんか隠してるんでしょ!」


 心臓がギュッと握られた気分。呼吸も苦しい。部のみんなからの視線が痛い。


 今言えばまだ間に合うだろうか。そして信じてもらえるだろうか。買ったチケットのQRコードを見せればいいのだろか。カモフラージュとか疑われる?


 ライブの時に誰か私を見ていたかもしれない。いや、そもそも見られないように注意していったわけだし、その人を探す手段がない。


 唯一可能性があるすれば、それはゲンだ。


 ライブが終わって急いでトイレから出てきたらゲンが倒れていてかなりテンパった。最低限の応急処置をしてその場を去ったけど、寮に戻る間は心臓が今まで感じたことないほどバクバク動いてたし、手も震えていた。


 もう世界が滅んでもいい! と思えるほど幸せだった。


 そのあと直ぐにファンクラブを通じてキーホルダーの連絡が来た時はどうしようかと思った。でもみんなに内緒で行った手前、そこで名乗り出る気にもなれなかった。


 連絡すればケルベロスの人たちが私を証明してくれるかな。でもそしたらミーティング中に遊んでたことがバレちゃう。


 別に犯罪をしたわけじゃないけど、女子にとって、隠し事がバレるのはかなり危険。信じてもらえなくなるから。


 私が悪かったの? 私がみんなに内緒にしていたのが悪かったの? 最初から正直に言っていれば、こんなことにはならなかったのかな?


 言えば楽になれるかもしれない。

 でも私の口は声を出さない。

 何が正しいのか分からない。

 もう考えるのが嫌になってきた。


 お願い

 誰が助けて


「まったく、この学園はどうして至る所で問題ばっか起きるんだ。勘弁しろよ」


 女子しかいない弓道場に、男の声が響いた。


 入り口に1人の男子生徒と1人の女子生徒が立っていた。女子生徒は見たことがないが、日本人じゃない。そして同性であっても惚れ惚れするほどの美人さんだ。


 男子生徒はどこかで見たことがある。記憶の奥にある映像。そう、あれは確か7月の終わり。全校集会での一幕。


「学芸特殊分室の結崎流斗だ。山下愛莉に用があってきた」


 全校生徒5000人を相手に大騒ぎを起こした張本人はため息混じりに言った。

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