第5話
3人組ダンスボーカルグループのケルベロス。学園の芸能科アイドル専攻で作られたユニットで、ここ最近ジワジワと人気が上がってきた。
そして先日行われたライブの後、リーダーのゲンが体調不良でトイレに駆け込む際に意識を失いかけた時、助けてくれたファンがいた。
そのファンの介抱があって大事には至らなかったが、助けてくれた人物はすぐにその場を去ってしまったようで、お礼をしようにもゲンにはどこの誰だったのかがわからない。
元々ライブはファンクラブ会員限定で、ある程度の人間にしぼることができる。それに現場には助けてくれたファンが落としていったであろう『AIRI』とプリントされたキーホルダーが落ちていた。
そこでケルベロスの3人は、当時の映像記録などを持っている新聞部に頼み、その時のファンを探そうとしたらしい。
それらの条件を重ねた結果、該当する人物『AIRI』が3人現れた。そして3人に連絡をいれたところ、
「その中の2人から『私です』って返事が来たんだ。ここから先、どうすればあの時の子だって判断すればいいか分からないんだよ」
真ん中に立っていた紫髪のリーダー、ゲンが肩をすくめて言う。
人物照会。先ほどの警察と似ているが、こちらは逆に善行である。シンデレラとは、よく言ったものだ。
だが問題なのは、本来1人だけのシンデレラに2人が立候補したことだ。
「それがこの2人だ」
栗栖部長はタブレット端末をこちらに差し出してくる。
坂上愛理。普通科1年5組、吹奏楽部所属。ゲン推し。
野中愛梨。農業科2年1組、手芸部所属。ゲン推し。
「これ以上の情報となると、流石に有料だな」
あれ、耳おかしいかな?
「金が必要なのか?」
「もちろんだな。だって人の貴重な情報だからな。それを売るのがあたしたちの仕事さ」
他人の情報で金巻き上げるのかよ。しかも協力要請してきたのそっちじゃねえか。
「一応分室との連携なら、緘口令として特例で情報提供が認められてるから大丈夫。まぁそれも新聞部としての情報のみで、部長個人が買い取ったものは契約外だけど」
「こらこら成美、それじゃあたしが闇の黒幕みたいじゃないか」
「人の朝ごはんのメニューを3円で買い取るのは新聞部ではなく、部長の個人的趣味でしょ?」
「そんなもん買ってどうするの?」
「たまにいるんだよ。好きな人の生活をのぞきたい変態がね。特に人気あるアイドルとか売れるんだな」
ルナの言葉に栗栖部長は遠くを見ながら微笑んだ。その横でケルベロスの3人は恐怖で顔が引き攣っている。
「……じゃあこいつらの顔写真出せるか?」
「ちょっと待っててね」
成美さんがタブレットを操作すると、画面に2人の顔が表示される。
坂上は黒髪のロングヘアーで前髪をピンでとめている。垂れ目で柔らかい印象を受ける。
野中はショートヘアーでメガネをかけている。おとなしい雰囲気の風貌だ。
「問題は誰が嘘をついているのかだっけ?」
「疑いたく無いのだけれどね」
ルナの言葉に、赤髪のミライ(と言う名前らしい)が答える。
「推しに会えるチャンスだからね。あわよくばって気持ちになるのかもね」
「だが嘘はいけないんだな」
成美さんの言葉を栗栖部長が否定する。
「誇張ならまだしも、事実とは異なる主張は完全なる悪意なんだなぁ」
本人かどうかは自分たちが1番よくわかっているはず。
0か100か。
そこに『自分かも?』という発想は浮かばない。
「そこでだ」と部長が続け、俺を見る。
「分室に、その知恵を借りたいんだな。あたしら新聞部はあくまでもデータベース。情報の収集は得意分野だが、そこからの活用・推論は専門外。さぁここから先、どうすれば本物を割り出せるかな?」




