第3話
翌日、朝から分室にはあーやの姿はなかった。どうやらファントムなる事件でさらに被害者が出たようで、色々と動いているらしい。
基本コンビで依頼を受けていたことが多かったために、いささか不思議な気分になる。
出会った当初と比べ、あーやも着眼点や発想に成長が見られる。この件がどう転ぶにせよ、あーやの自信につながると思えば1人で仕事をさせるのも悪くないだろう。
だが事務作業神レベルのあーやが実働していることは、学園の依頼の処理速度が格段に落ちると言うことだ。
ルナは実務は手伝うくせに、事務作業は『日本語読めない』と言って逃げる。今はソファーに寝転びながら分厚い本を枕にして、図書館にあったという漫画を読んでいる。
それを横目に、俺と室長は午前中に出されたワガママ放題の依頼を早急に処理すべき内容か、ひとまず判断しなければならない。
・無くした消しゴムを探して欲しい。
・ロシア語の辞書が図書館で常に貸し出し中になっている。
・購買部前の自販機の種類がもっと充実して欲しい。
・国語の佐藤先生が不適切な指導をしていた。
・バーコード頭で有名な体育の南部先生が髪を切ってきた謎について調べて欲しい。
・【早急】弓道部の道具が誰かに壊されている。
・理科の岡田先生に韓国人の彼女がいるらしくて、本当か調べてほしい。
・山岳部の練習を手伝ってほしい。
昨今話題のAIで遊んでいるのかと思うほどいい加減で、他人からすればどうでもいいものが多い。
そしてそもそもこっちじゃなくてそれを管理している大元に尋ねればいいはずだ。
「おお流斗! ため息をつくと運が逃げるらしいよ!」
「ため息くらいつかせろ。お前さっき昼飯食べたばかりだろ? 日本語には『食べた後にすぐ横になると牛になる』って言葉があるぞ」
「いやー、このソファーとこの枕が気持ち良くて」
ルナが頭に敷いていた本を取り出す。
「流石我がロシアの辞書だね。僕にぴったりのサイズだ」
「待てロシア語の辞書だと? それって図書館のやつか?」
「そうみたいだね」
「おい室長! 依頼が一つ解決したぞ!」
どこのどいつだか知らんが、借りた物は返せ!
「はは、前に誰かが借りて、そのまま置いちゃったのかな」
「身内が問題作ってどうすんだ」
「僕のお手柄だね!」
「お前は調子に乗るな。ダメだ、この空間にはいい加減な奴しかいない! ツッコミが不足している! あーや早く戻れ!」
「いやいや、君も体外いい加減な奴なんだよ?」
誰だって自分を普通だと思いたいだろう。
「そのファントムとやらは解決しそうなのか?」
「そうだね。君塚さんならきっと大丈夫だよ」
含みのある言い方に引っ掛かりを覚えるが、特に追求はしないでおこう。本来俺にきた依頼を横流ししたことといい、室長なりの狙いがあるのは明白である。
そしてそこを突いても、俺には損しかなさそうだ。
「因みに、七不思議ってあとはどんなのがあるんだ?」
「ファントム以外だと、よく当たる占い師やロッカーに物を入れておくと望みの物に交換してくれるわらしべ屋、学園のセキュリティを掻い潜って外に出られる秘密の抜け道とかがあるよ」
「胡散臭いものばかりだな」
「七不思議って時点で胡散臭いに決まっているじゃないか」
噂とはだいたい尾鰭がつくものだし、眉唾なんて言葉もある通り、信憑性がないものなんて世の中にはたくさんある。
そこから真実を探るとなると、途方もない労力がかかるわけだ。
だが火がないところには煙は立たないのも事実。
その情報が生まれた裏には、何かしらの新しい情報が眠っていることがよくあるわけだ。
その時、内線のベルが鳴って室長が受話器を取る。
「はい、分室の影宮です。おや、珍しいね」
既知の相手のようで、少し会話が弾んだ後に受話器を置いた。
「さて結崎君。仕事だよ」
「この事務作業から解放してくれるならなんでもいい」
「大丈夫。それに、なかなか骨の折れそうな話題だよ」
「僕も手伝っていいかな?」
「もちろん。人手が多いに越したことはないよ」
ルナの問いに室長が答える。許可する辺り、ファントムとは何かが違うのだろう。
「んで、何をやればいいんだ?」
「人探しさ。5000人の全校生徒の中からある特定の人物を探してほしいって。さしずめ、シンデレラを探せってところかな」




