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第16話

「本物に出会った早乙女君が、もう一度会うためにファントムの真似をし始めた。それに気付いた若島君が、力づくで早乙女くんを止めた」


 夕方、ことの顛末を室長に報告した。分室には私と室長だけ。成美さんとはキックボクシング部の部室を出たところで別れた。


 若島先輩から『分室への報告は構わないが、新聞部は広めるな』と、釘を刺されたことに「呼んでおいてそれはなくない!?」と文句を言っていた。


 だが、今回のことは最低限の人間が知っていればいい。その意見には賛同する。


「なるほど。高見君以降で偽物被害が出なかったのは、偽物が怪我を負っていたからか。そして若島君が本物に会ったと騒げば、嫌でも早乙女君は気になるしかない」


 早乙女先輩が偽物を演じている事に若島先輩がいつ気付いたかは分からない。ただ、早乙女先輩の足の違和感には気付いていた。


「早乙女先輩はどうなりますか?」


「さぁね。あとの処理は部長会議の役目だ。僕らは依頼を解決した。そこから先の決定権はないよ」


 冷たい言い方だが、これ以上は過干渉になる。そこは学園のパワーバランスとして崩してはいけない。


「ともかく、事件が解決してよかった。君塚さんに任せて正解だったよ」


「本当に、そうでしょうか?」


 室長の言葉に、素直に頷けない。


「何か気になることでも?」


「私はその場に居ただけです。私がいてもいなくても、今回の件は今夜決着していました」


 犯人を捕まえたとするのなら、それは若島先輩だ。私はたまたま居合わせることのできた野次馬にすぎない。


「1つの見方として、それは正しいと思うよ。ただ僕は、当事者以外がその場にいたことに意味があると思うよ」


「どんな意味が?」


「若島君の早乙女君の2人だけで殴り合いなんてしてごらん。綺麗に解決したかな?」


 意見を対立させながらの話し合い。穏便には済まないだろう。


「自分たち以外がその場にいる。それだけで多少お互いに冷静になれたとしたら、君塚さんたちがいた意味はあると思うよ」


「そうだとしても、私はファントムについて何も解決できませんでした」


 室長の意見はあくまで想像だ。結果としてそうなったかもしれないだけで、運が良かっただけだ。


「そもそも私の力だけで、真相に至ることもできませんでした。全ては偶然です。志織さんからの連絡がなければ私は」


「その『偶然を引き寄せる力』って、僕は大切だと思うよ」


 間髪入れずに返事をした室長の言葉が、やけに重く響いた。


「一夜漬けの勉強でヤマが当たる。偶然だが、そこで一夜漬けをしなければそれは引き寄せられない。誰の人生でも、偶然が未来を決定している」


「すべての成功が偶然ならば、努力とはなんですか?」


「偶然を引き寄せる可能性をあげる行為だね。狙った場所にボールを蹴るために練習する。人に好かれるために自分を磨く。何かあった時のために交友関係を広げておく。僕にとっては、すべて成功確率をあげる手段だ」


 室長はあまり感情的にならない。結崎君との会話でさえ、一枚上手な時がある。そんな室長の()()が見えた気がした。


 室長は何かと戦っている。戦おうとしている。室長の人生はその準備に費やされている。


 何かあった時、自分がきれる手札を増やし続ける。


 きっとその敵は、私が想像もできないほど巨大なのだろう。


「なぜ、この事件を結崎君ではなく、私に担当させたのですか?」


「1つ。結崎君には今ルナがいる。ルナをこの件に関わらせたくなかった」


 ルナは基本的に部外者である。至極真っ当な理由だが、違和感を覚える言い方だった。


「2つ。君塚さんが真相に達し、『偶然を引き寄せる力』を持つか知りたかった」


 はい?


「そして見事、君は真相に達した。合格だ」


「何に、ですか?」


 褒められているはず。室長の笑顔は優しい。ただ、そこにいつもと違う雰囲気を感じる。


 知らなくてもいいことを知ってしまったような焦りが、湧いてくる。


「僕たちの仲間だ」


 僕たち? 仲間? と言う疑問がよぎった時、私は視界の隅で何かを感じ取った。


 白い何か。3つの穴が空いている。


「ファントム!?」


 慌てて椅子から立ち上がる。ファントムがいる。仮面を被り、栄凌学園の制服を着ている。分室の部屋にいて、あろうことが椅子に座っている。


 一体いつから? 本物?


「そして今回は迷惑をかけたね。まさかファントムに会うことで早乙女君がああなるとは思いもしなかった」


 その言い方では、まるで室長が本物のファントムと繋がっていたように聞こえてしまう。


「室長、これは一体どういうことですか?」


「ファントムってね、世襲制なんだ。僕は先代、彼が当代だ」


 長年の友人を紹介するように言う。


 ()()()の席に座るファントムは腕組みをした姿のまま、動かない。


 ダメだ。理解が追いつかない。私は今、何に巻き込まれているのだろう。


「私に、何をさせるつもりですか?」


「言っただろう。仲間になって欲しい」


 そこで室長は机の引き出しを開けた。


 そこから出てきたのは、別のファントムの仮面。目尻の形がやや尖った形になっている。


「おめでとう。今日から君はファントムレディだ」


 きれる手札を増やす。


 何の冗談か。


 夢であって欲しい。

ファントム事件、いかがでしたか?


構想自体はかなり昔からありましたが、それを形にする事に長い時間がかかってしまいました。当初のアイディアに追記をし続け、なんとか形にしました。

1番変わったことは視点を流斗ではなく、絢音にした事です。彼女の苦悩と成長を書きたかったところが大きいです(最後謎の勧誘を受けていますが笑)


次の話ではようやくルナが動きます。土日がほとんどになりますが、少しずつ更新していければと思います。


絢音のお話に付き合って頂き、ありがとうございます。といいつつ、絢音の苦悩はもう少し続きますが。

よろしければ感想、評価等をしていただけたら嬉しいです。

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