第13話
志織さんとの食事を終え、カフェを出た私はそのまま学園へと戻っていった。
時刻はお昼過ぎの2時を過ぎたところ。ちょうど気温が1番高い時間だ。
「あやや!」
校門を通り、エントランスの広場に入ったところで、遠くから走ってくる成美さんの姿が見えた。
先ほど帰りがけに連絡を取ったばかりなのに、行動が早い。
「成美さん早かっ」
「偽物の正体が分かったって本当!?」
言葉の途中で成美さんが私の両肩をガシッと掴んでくる。そしてすごい勢いで揺さぶってきた。
「と、と、とりあえず進みながら話しましょう」
なんとか離してもらい、2人揃って進み始める。
「先ほど結崎君のお母さんと会ってきました」
「あー、あの警察の人だっけ? そして神北先生のお姉さん」
「はい。そして分室の初代室長です。その当時からファントムの話はあったそうで、その話の中でファントムに会うには条件があるそうです」
「条件?」
「ファントムは、会いたいと思っている人の前には出てこないそうです」
「え、何それ。ボーナスキャラのくせに探しても出てこないってこと?」
「志織さん曰く『ファントムは気まぐれで、そんなに優しくない』とのことです」
「なんかそのフレーズに当てはまる人物を知っている気がするんだけど」
「同感ですが、彼ではないでしょう」
陸上部に襲われた時のことを考えても、彼にファントムの知識はなかった。
「若島先輩はファントムに会いたがっていた。つまり若島先輩は本物に会っていないんです。本物に会っていない若島先輩に、本物と同じ仮面は用意できません。若島先輩に偽物は演じられないんです」
仮面の謎。それは私だけでは気づけなかった。
「じゃあ偽物はあとの3人の誰かってこと?」
「木村先輩を襲った偽物は男でした。少なくとも南條先輩ではありません。そして加藤先輩の話では、最終的に武器であるフェンシングの剣を捨てて、素手で戦っています。いくら専門ではないとは言え、剣道部の片桐先輩が剣を捨てるのはおかしい」
つまり偽物に該当するのは。
「男性であり、蹴り技を主体にする人物。そして早い段階で本物に出会った人物。それに当てはまるのは早乙女先輩しかいません」
「確かに! あややの言う通りだ!」
自分の考えを認めてもらうことが、なんて気持ちいいことなのか。
ただ志織さんと話をしなければ辿り着けなかった。これは私だけの力ではない。
「でもなんで早乙女先輩は偽物なんて始めたんだろ?」
「ここからは憶測ですが、状況的に早乙女先輩は最初に本物のファントムに出会っています。そこで早乙女先輩の中で何かがあった。それが早乙女先輩を変えてしまった」
「なんでそんなことがわかるの?」
「それに気づいた人がいるからです。早乙女先輩をよく知るその人物は、何かが起こったことに気づいた。だから態度を変えた」
「若島先輩だ!」
坊主頭の一年生が言った通りなら、若島先輩の態度が変わったのはしばらく前。そのタイミングで早乙女先輩がファントムに会った。
「若島先輩は早乙女先輩がファントムに会ったことを『無意味』と言いました。インターハイに出ないのだから、と。その言葉が引っかかっていました。その言葉は早乙女先輩が本物に出会ったと分かっていなければ出てきません」
インターハイに出ない片桐先輩は『誰に言っても信じない』と言っていた。どうせ自分が会ったのは偽物だろうと。
ならばライバルである早乙女先輩がファントムに会ったと言っても、若島先輩の言葉は「どうせ偽物だ」になるはず。
「ファントムに会ったことで早乙女先輩の変化を若島先輩が感じていた。もしかしたら早乙女先輩が偽物であることにも気づいているかも知れません」
よく見知った間柄。その関係を部外者の私たちが想像することは難しい。
「結崎君といい、あややといい、よくそんな細かいところに気づくね」
「彼も何か請け負っているのですか?」
「なんだかややこしいシンデレラ案件が来たんだけど、そこはまぁ結崎君だから」
シンデレラ案件とは、ざっくり言うと人探しだ。5000人を超える在校生から依頼に合う人物を探し出す。
ややこしい、が何を示しているのか私には分からないが、むしろ結崎君にとっては喜ばしい事態かもしれない。
面倒だと言いつつ、その面倒を楽しむ天邪鬼なところがある。
「じゃあキックボクシング部の部室にいこう!」
「はい!」
若島先輩は最後の調整と言っていた。
もし若島先輩が早乙女先輩に何かを思っていた場合。
それがどんな意味をもっているのだろか。




