第12話
そこから偽物のファントムについて、起こったことを全て話した。
例年とは違い被害が出ていること。結崎君が襲われたこと。私が解決しようと動いたこと。
そして若島先輩によって、本物のファントムが討伐されたらしいということ。
「なるほどね。ただ肝心な偽物問題は何も解決していないと。そして流斗を襲うとか、怖いもの知らずだね」
志織さんは、説明している途中で運ばれてきたカルボナーラをフォークに巻き付ける。
「はい。偽物の被害は止まっていますが、結局解決したとは言えなくて」
被害が出なくなったから終わり、というわけにはいかない。
分室への依頼は『偽ファントムの正体を突き止めて、これ以上被害が広まらない様にしてほしい』だ。
正体が掴めていない以上、完全に被害が広まらないとは言えない。
「被害的には警察案件だけど学園内だからねー。ファントムの偽物を演じようなんてすごい後輩もいたもんだ」
「志織さんの時からファントムの話はあったんですか?」
「あったよ。というか私会ったし」
「え?」
まさかの当事者。
「志織さんはインターハイに出てたんですか?」
「いや、出てないよ。そもそも私たちの時とファントムの状況が違う。私にとってのファントムは『出会ったら何でも願いを叶えてくれる存在』だったからインターハイとか関係なかったわよ」
やはりインターハイはファントムの条件ではなかった。そうすると早乙女先輩、片桐先輩については本物説が有力になる。
願いを叶えてくれる。インターハイ出場者には優勝を。出ない人にも相応の報酬をくれるということだろう。
《ただ、誰でも会えるわけじゃない。ファントムこそ『来るかどうか分からなかった転機』。気まぐれに人を導く。むしろ会いたいと思っている人の前には出てこない。あいつはそんなに優しくない。まぁ私の時のファントムは、だけどね》
『会いたいと思っている人の前には、出てこない』
その言葉が引っ掛かる。
「ところで1つ気になったんだけど」
志織さんは自分の顔を指差す。
「あなたたちのファントムはなんで仮面被ってるの?」
「なんで、と言われても。正体がバレたくないからとかではないですか?」
それ以外仮面を被る理由に心当たりはない。ファントムとはそういう物。正体が不明の方が不思議だ。
「昔は仮面はなかったんですか?」
「仮面じゃなくてビーチチェアに寝っ転がってたわよ」
なんですかそのバカンス気分は。
「まぁあいつのことはいいわ。ちなみに仮面ってどんなやつなの?」
「えっと目と口が空いている白い仮面で」
今までの証言を思い出す。
「それって、今までのファントム全員同じ仮面?」
「え? 確か特徴は同じはずですが」
「なんで? なんで偽物は本物と同じ仮面を用意できるの?」
「それは!?」
ファントムは全て同じ特徴の仮面をしている。何の違和感もなかった。ファントムはそういう物だと感じていたからだ。
だがそこには本物と偽物が混じっている。偽物は行動を真似ることはできる。だが偽物は姿形を真似ることはできない。
陸上部の双子がそうだ。彼らが被っていたのは、仮面ではなくフルフェイス型のマスク。種類が違う。本物を知らないからだ。
「偽物は本物を知っている?」
本物のファントムを知らない限り、本物のファントムと同じ仮面を用意することはできない。
本物のファントムを知っている可能性のある人物。それは本物に襲われたことのある人間に他ならない。
順番として最初に本物に会ったのは、早乙女先輩だ。なら早乙女先輩が偽物を演じたのか。
いや、早乙女先輩よりも先に生垣先輩が偽物に襲われている。生垣先輩の時にはまだ早乙女先輩は本物に会っていない。
だがその順番がもし偽りだったら。本当は誰かが先に本物に会っていて、その後模倣犯になったのだとしたら、仮面の謎は解ける。
模倣犯は、本物に会った可能性の高い早乙女先輩、南條先輩、片桐先輩、若島先輩の誰かだ。
「いや、違う」
この情報が加わるならば、私は模倣犯を特定できる。
模倣犯はあの人だ。
「何か掴んだみたいだね」
「志織さん、ありがとうございます」
納得のする結論が見えた。だが私の力だけではこの結論に辿り着けなかった。導いてもらった。
「いいんだよ。昔の私もそうだった。あとは自分で頑張るんだよ」
「はい」
自分のやるべきことが分かった。それだけで気持ちが軽い。
私はこの『転機』を逃がさない。
†
絢音を見合った直後、志織のスマホに着信が入る。表示されたのはさっき話題になった愚息だ。
あっちから連絡するとは珍しい。なんだかんだ連絡をしてくれることに嬉しさを感じつつ、一方で嫌な予感もしながら応答する。
「何の用?」
《聞きたいことがある》
挨拶もほどほどに、直球で話題に入る。
《小林美沙について知っていることはあるか?》
「ちょっと待ったちょっと待った。なんであんたからその名前が出るのよ」
やっぱり嫌な予感は当たった。なんでこの親子はそう嫌な関わり方をしてくるのか。
先日起きた書店での万引き事件。その容疑者である女子高生。警察がようやく今朝突き止めた対象に、一体何の用があるというのか。
《詳しく話を聞かせてくれ》
当たり前に守秘義務がある。喋れるわけないでしょ、と突っぱねなければならない。
「はぁ分かった。場所を変えるから少し時間ちょうだい」
でも情報を提供する価値があると判断した。




