表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/143

第10話

「あ、あの」


 突然後ろから声をかけられる。振り向くと、そこには先ほどお茶を出してくれた坊主頭の部員がいた。


「あ、先ほどはお茶をありがとうございました」


「いえ、僕は指示に従っただけなので」


 若島先輩を見たあとだからか、格闘技をやっている割にとても謙虚な姿勢に見えた。


「それで私たちに何か?」


「あ、新聞部の方にお話があって」


「あたし?」


「はい、先日取材にいらした新聞部の方は大丈夫でしたか?」


 申し訳なさそうに頭を下げる。


「あー大丈夫、大丈夫! 今日私が来たのはキックボクシング担当が変わった訳じゃなくてファントムの件だったからだよ」


「あ、そうなんですね。いえ、それでも申し訳ありませんでした、とお伝えください」


 おそらく一年生だろう少年は、とても丁寧に見えた。


 一年生で部の評判を気にしているのがすごい。


「確かに若島先輩はちょっと熱くなるところはありましたが、前は違ってたんです」


「というと?」


「言い方とかは確かにきついですけど、自分のダメなところしっかりと教えてくれることもありましたし、練習にも付き合ってくれたんです!」


「はぁ」


「あ、えっと、待ってください! あ、そう! 野良猫にも餌あげてました!」


 不良と猫のセットですか。


 若島先輩の本当の姿。それを誤解してほしくない、と言うことだろうか。


 すごい必死に訴えてくる。


「それに早乙女先輩にも、確かに仲良いわけではなかったですが、あそこまで露骨に言葉を浴びせることはありませんでした」


「それは、何かきっかけがあったのですか?」


「インターハイ予選が終わった後あたりです」


 2人の雌雄が決した時。十分人間関係が変わる要因にはなる気がする。


「こんなこと言って説得力ないかも知れません。でも2人のこと、誤解しないでもらいたいんです! 確かに前から会話はほとんどしていなかったんですが、お互い意識してましたし、お二人からの指導があって、自分、本当に強くなれた気がするんです!」


 謙虚を撤回しよう。語り出したらこの少年は十分熱かった。いや、謙虚ではあるのだが、すごい勢いで喋り通した。


「それだけです! お時間とらせてしまい、申し訳ありませんでした! それでは!」


 深々と礼をすると、少年は走り去っていった。


「『若島先輩の素顔! 猫に餌!』って見出しの方が売れるかな?」


 売れるかもしれないが、多分それはかなりチャレンジャーだろう。


「あ! あたし偽物のファントム分かったかも!」


「本当ですか?」


「偽物の正体はきっと若島先輩だよ! だってなんか乱暴そうだし。手当たり次第に力比べしそうじゃない?」


 かなりの偏見が入った意見だった。


「しかもライバルの早乙女先輩が本物に襲われたんだから、若島先輩的には面白くないよね! だから早乙女先輩に当たりがキツくなった! なんか合ってそうじゃない?」


 荒唐無稽な話かと思ったが、ふと考えてみた。


 行動原理は不明だが、偽物の特徴である乱暴な行動や蹴り技主体の戦い方は似ているところがある。


 そして若島先輩の行動の変化。そこに焦点を当てるならあり得る話だ。


 絶対的に成美さんの考えに賛成するわけではないが、かと言って私の中で否定できる矛盾を見つけることもできない。


「よし! ちょっと部長に話してくる! そうと決まれば動くべし! じゃあね君塚さん! またなんか動く時は教えてね!」


「あ、ちょっと成美さーーー」


 こちらの静止も耳には入らず、成美さんは立ち去ってしまった。


 すごい爆弾を置いていかれた気がする。


 若島先輩=偽物のファントム説。私はそれをどう処理すればいいのか。


 このまま分室に戻るにしても、それを室長に報告するのか? 


 いや、自分に反論できないだけで、これは信憑性が低い。見た目の印象で結論づけた感が否めない。


 実のところ、若島先輩について気になっていることはある。ただ、それをうまく表現できない。


 成美さんの勘を否定しておいて、私は私自身の引っ掛かりをうまく解消できていなかった。


 考えがまとまらない。

 

 暗い。視界がではなく、意識が。


 自分のやるべきことがわからず、どこに進んでいいのか分からなかった。

 

 私には力が足りない。


 その時、ポケットに入れているスマホが震えていることに気づいた。


 取り出して、液晶に表示されている名前を見る。


 思わず唇を噛む。溢れそうな涙を必死に堪える。


 この人は今の私の状況を知っているのだろうか。


 そうでなければ、なんてタイミングでの電話なのだろう。


 出るかどうか一瞬迷う。甘えだと思ったからだ。スマホをしまおうとした。


 だが一度、喉の調子を整えて結局電話に出る。


「はい、君塚絢音です」


《こんにちは絢音ちゃん。今時間ある?》


「大丈夫です、志織さん」


 結崎志織さん。


 私の憧れの人はいつもと同じ明るい声で話しかけてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ