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第7話

「この偽物って、何したいんだろうね」


 何か進展を望めそうな考えもひらめかず、ただ書類の情報を見ていた時、成美さんが呟く。


「目的ということですか?」


「人を襲うにしても、別にファントムの真似する必要ないじゃん。ファントムに罪なすりつけるにしても、速攻バレてるし。襲った人にもそんな共通点ないんだったらなにが目的なんだろう」


 ファントムの真似をする必要性。偽物を演じてまでしたいこととは何なのか。


 ファントムに憧れた、真似をしたかったというのはどうか。そうすると、ほぼ傷害罪に近い犯罪を犯してまで真似をする意味とは何なのか。


 ただの愉快犯か、それとも計画犯なのか。手持ちの情報では私には判断ができない。


 そう、私には。


「結崎君なら、何かに気づくのでしょうか?」


 思ってしまったら最後、つい口に出てしまった。


「結崎君ならまぁ〜〜いやどうなんだろうね」


 成美さんの言葉は、途中で内容を変えた様に感じた。言い淀んだ。


『結崎君ならまぁ何かに気づくかも』


 その言葉を飲み込んだ気がした。それは何故か。きっと私への配慮だ。


 同じ情報を与えられても、私が1できるとしたら結崎君は3でも4でも読み取ってしまう。


 その事実は嫌でも分かる。自分の力不足を自分で明るめにしてしまった。


 そんな行動に出てしまった自分も恥ずかしい。


「いや本当に結崎君でも分からないかもよ!」


「そうかも、しれませんね」


 同意はしたが、私の気持ちはもう転がっていた。


 結崎君ならこの後どうするのだろう。


 結崎君なら何に引っ掛かりを感じるのだろう。


 結崎君なら被害者の情報から何を結びつけるのだろう。


 結崎君ならもう犯人の目星をつけられるはずだ。


「君塚さん、今日はもうやめよう。一旦休もう」


「休んでも、なにも解決になりません」


「でも十分情報をまとめたよ。少し休んで、また明日頭すっきりさせて考えようよ」


「明日では遅すぎます。今日のうちに何か方向を決めなければダメです」


「でも」


「ダメなんですッ!!」


 叫び声が、自分であることに一瞬気づかなかった。胸がざわざわする。


 私が任された仕事。私が責任をもたないといけない。私が解決しないといけない。


 まだ努力が足りないだけだ。


「きっと何かあるはずです! 何かあるはずなんです!」


 私では見抜けない何かがきっとーーー。


『ないよ』


 刺された、気がした。何かが私を刺した。物理的ではない。ただの感覚として何かが私を貫いた。


 だが、ここには私以外は成美さんしかいない。


「もう一度言うよ。今のあなたに見抜けるものはないよ。それくらい、あたしにも分かる」


「今の私、ですか」


「全然冷静じゃない今のあややが何を考えたとしてもいい案は出ないよ。出たとしても、きっとそれはあんまり良い案じゃない」


 冷静じゃない。その言葉が刺さる。


「結崎君はそりゃすごいよ。でもその裏には結崎君なりの苦労があるんだよ。あたしもそれなりの苦労はしてきてるけど、きっとそれは結崎君には遠く及ばない」


 詳しくは聞いていませんが、周防兄妹は支倉が運営する養護施設出身だったはず。


 そこで成美さんは支倉遼一に目をつけられ、側近としてそれなりの教育を受けている。


「だから結崎君と自分を比べることに意味なんてないよ」


 こちら側が市販のエンジンなら、あっちはプロ仕様の一級品。比べる方が馬鹿げている。


「なら」


 その言葉を信じるならば。


「なんで室長はこの事件を私に任せたんですか」


 結崎君に来た依頼をなぜ私に流したのか。


 なぜ私に()()()()()()なんて重荷を背負わせるのか。


 そこが私には1番辛い。


「あたしは遼一様の側近ととして育てられたのは聞いたよね」


 遼一様、という表現が出た瞬間、成美さんの雰囲気が変わる。


「はい」


 支倉遼一と室長の影宮織也は腹違いの兄弟だ。


「だからこそ、影宮織也って人物がどんな人かはよく知っている。彼はどんな劣悪な環境に置かれても、決して潰れることはなかった。遼一様や周りがいくら嫌がらせをしても、気づけば全部影宮織也に有利な状況になっている」


「何が言いたいんですか?」


「影宮織也こそ、支倉の血を濃く継いでいる。そしてその血は『必ず正しい場所に立つ』判断を誤らない」


 それはつまり。


「影宮織也が結崎流斗ではなく、君塚絢音を指名したことには何か意味がある。そしてそれはきっと正しい。あたしはそう思ってる」


 消去法でもなく、当て馬でもない。


 君塚絢音は選ばれたのだと。


 必要とされているのだと。


 思えば、先ほど大声を出した時のざわざわとした気持ちはなくなっていた。


「だからさ、今日は一旦休もうよ。じゃないと、出る案も出ないよ」


 成美さんは大きくあくびをする。


「わかり、ました」


 結崎君ではなく、私がこの事件を担当する意味。成美さんの言葉を信じるならば、室長には何かが見えているのだろう。


 私でなくても、ではなく。


 私でなければいけない。


 そんな理由が隠されているのだろうか。

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