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第5話

『努力は裏切らない』


 得手不得手はあれども、努力無しに上達はない。その言葉は私の生き方を支えてきた。


 様々な分野に触れ、自分の知見を広げる度に自分の成長を実感できた。経験を糧に、見識を広げていった。


 憧れた人は常に凛とした姿で、我が子の様に私に接してくれていた。目標が身近にあることが、さらに私を奮起させた。


 認めてもらいたい。いつか私も肩を並べたい。その一心で『努力』を続けた。


 その『努力』嘘偽りはない。


 ただ、私の『物差し』が短かっただけなのだ。



 床を踏み抜くのかと思うほどの響きと、高い奇声が所々から聞こえる。剣道場では50人は超える部員が鍛錬に勤しんでいた。


 私はその片隅に立つ1人の男子生徒に近寄りました。


「片桐先輩ですね?」


 面の下の顔には 滝の様な汗をかきながらも、端正な顔立ちを見せる3年生は私を見ると優しく微笑んできました。


「待っていたよ君塚。ちょうど休憩なんだ。中だと蒸し暑いから外で話そう」


 先輩の提案に頷きを返します。夏真っ盛り。嫌いな季節ではないが、立っているだけで汗が吹き出る環境にわざわざ身を置く趣味もありません。


 片桐先輩に先導され、道場の軒下に移動する。裏口にあたる場所で、表通りからも少し離れているので人の目にも付きにくい場所でした。


「一応部長からざっとは聞いているけど」


「はい。先輩を襲った襲撃犯について教えてください」


 片桐勉。偽のファントムに襲撃されたであろう被害者の内の1人。


 室長から調査を任された私は、白鳥部長が部長会議で集約した情報を元に、直接聞き取りを行うことにしました。


 このファントムは例年とは違う。何が違うのか。なぜ違うのか。突き止めようにも本人には出会えない。


 そうなると手がかりは()()()()()に話を聞くしかなくなる。


「いつどこで、どのような状況だったか覚えている限りで教えてください」


「確か4日前の夜だったよ。なんかタバコ絡みで謹慎者が出た日だったからよく覚えてる」


 室長が出したお題から、偶然にも解決した事件があったのを思い出した。


「インターハイ予選でのミスがなかなか納得できなくて、1人道場で素振りをしていたんだけど、そこに突然白い仮面を被った不審者が現れたんだ」


 よく覚えているのか、準備してくれていたのか、片桐先輩は流暢に話してくれました。


「マジでお化けかと思ったんだが、竹刀持ってるし、なんか急に構え出してきたんだ。俺も気が立ってて誰か呼ぶような頭もなくて、お互い防具もつけずに地稽古、えっと本気の試合をしちまったんだ」


 防具もつけずに竹刀を合わさるのはとても危険なはす。私もかじったことはありますが、竹刀とは持ち運びについてもルールがある凶器になってしまう代物です。


 それを防具無しに打ち合えば痛いでは済まないはず。よくて重度の打撲。骨折してもおかしくない。


 だが片桐先輩の体には目立った怪我は見られません。


「どこか怪我をしましたか?」


「いや、どこも」


「というと、先輩が強かったんですか?」


「いや、多分俺の方が弱い」


 どういうこと?


「悔しいが、俺と同レベルで打ち合ってくれた感じだ。こっちがいくら打ち込んでもあっさり受けられちまう。次第にこっちもマジになっちゃってなぁ」


 武を極める。ファントムを模倣するにあたり、その名に恥じぬ実力はもっているのかもしれない。


「気づけばなんか心がスッキリしたというか、あぁ俺に足りないものってこれだったんだって見つけたような気がしたところで、それまた急に竹刀を下げたかと思うと、そのまま道場を出ていっちまったんだ」


 出会った者に、恩恵がある。悩みが解消できたのなら、きっと片桐先輩はこの出会いで技量が上がったに違いない。


 ただ気になるのは、ここまでの話を聞いていると、ただの本物の話に聞こえてきてしまうのですが。


「そりゃさ、『まさかあいつか噂のファントムか!?』ってなったけど、俺インターハイ予選で敗退してるし、やっぱりあいつ偽物なんだよな?」


「え、先輩はインターハイ出ないんですか? あ、いや、すみません。口が過ぎました」


「もう吹っ切れたからいいよ。というか部長から聞いてないのか? 俺個人戦準決勝で負けて出られないぞ。うちの学校、団体戦は団体戦でメンバー組んでるから俺は夏はもうおしまい。もう今は秋にある連盟主催の全国大会に向けて稽古中だ」


 ファントムはインターハイに出場する選手たちが出会うはずです。いや、確実にそうかと言われるとそんな約束事はないわけで、ただの迷信ですが。


「聞けば、他の部活にもちょっかい出してる奴みたいだし、いい迷惑だぜ。そりゃインターハイ出てれば本物に会えたって喜べるけど、出られない俺が言ったところで負け惜しみにしか聞こえないだろ? 予選で負けたけど、ファントムには襲われましたって、誰も信じないよ」


 片桐は嘲笑混じりに話す。


 やっていることは本物っぽい。でもいつもと違う部分もある。


 片桐先輩に関しては、ファントムの効果を実感してるし、怪我もしているわけではない。


 だが、そもそも出会える資格がない。

 

 片桐先輩が出会ったのは、偽物なのだろうか?


 それとも、本物なのだろうか?

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