12話
「それで成美さん、これはどういった状況なのですか?」
先ほどの事がなかったかのように、あーやは未だざわついている集団に目を向ける。
「あーうん。見て分かると思うけど、女子バスケの部室の鍵の問題らしいんだよね」
「と言うとまたですか?」
「うん。そういうこと」
「そっちで納得すんのは勝手だが、俺にも説明してくれ」
「おっと悪いね。うちの学園って、校門通る時は学生証の認証が必要なハイテクでしょ? でも昼間の教室とかはまだアナログな鍵を使ってるよね」
校門の出入り、時間外の校舎への出入りに関して、この学園は学生証の提示が求められている。通っている生徒の中には所謂良い所の御息女や、世間から注目を集める天才たちもおり、プライバシーを守るために外部からの侵入を防ぐ措置、らしい。
だが校舎内はそういったハイテクになっておらず、アナログな鍵で統一されている。入るのは難しいが入ってしまえば怖い物は何もない典型的な防犯システム。先ほど朱乃にも言った様に、侵入の手口などいくらでも思いつく。
「んで鍵がなくなったってことか?」
「無くなった訳じゃなくて、使えなくなったが正しいかな」
「鍵穴が壊されたのか?」
下手なピッキングを行えば鍵の通り道が変形し、鍵が刺さらなくなる事がある。
「いえそうではありません。鍵を保管していた場所の鍵が、行方不明になったのです」
「何だその面倒臭さは? 鍵を保管するための鍵ってなんだよ」
「部室の鍵は四桁のダイヤル式のところに各部活がそれぞれ管理してるの。あの銭湯とかの貴重品入れみたいな奴ね。んで、そこで問題になったのが」
「施錠した時の暗証番号が分からなくなったってところか?」
「大・正・解! だよ」
そんな軽快に指を鳴らすことでも無いだろうが。
「これも分室で取り扱う案件なのか?」
「生徒がより良く学園生活を過ごすためのサポートを行うのが、分室の役割です」
つまり文句言わないでさっさとやれってことか。
「とは言っても、あのタイプの鍵はこんな時のためにマスターキーがあるだろ? それ使えば一発じゃないか」
ダイヤル式といってもつまみの部分に鍵穴があり、そこにマスターキーを差し込めば番号を無視して開く事が可能だ。ピッキングをするまでもない。
「この問題はそれだけではありません」
だがそこであーやが相変わらずの鋭いトーンで冷静に言う。
「今年に入って女子バスケットボール部だけで、この問題は既に四回起きています。そして五回目が起きれば管理問題として、一定期間の部活動停止が決定していました」
先ほど女子バスケの鍵と聞いただけであーやが納得したのは、常習犯だと言うことか。
「つまり、今回で五回目をやっちまった、どうしようもない輩がいるって事か」
確か近頃インターハイという部活の全国大会県予選が行われると記憶していたが、今部停なんてやらかせば、たまったものではないだろう。さきほどの怒鳴り声も納得できる。
「じゃあ何か? 俺たちはその女子バスケの弁護にでも立てば良いのか?」
「私たちは法律と学則の元で、できる限りの援助を行います。ですので、学校側の決定に背くことはできません。女子バスケットボール部は残念ですが部停になるでしょう」
「後もう一つ、シャワー室の鍵がなくなったらしいんだけど、これはまったく別の話だろうから、先に女バスを片付けた方が良いかも」
人だかりになっている女子バスケ部員たちからは何か鬼気迫る雰囲気があり、明らかに怪しい集団だ。それだけ切羽詰った状況と言うことだ。
そこで彼女たちを眺めたあーやは俺に目線を移す。
「では結崎君、早速ですがあの中に突撃してください」
「地雷原に自ら突っ込めってか? それって自殺って言うんだぞ?」
「問題の後の騒ぎを止める事も私たちの仕事です」
「あぁそれも仕事なのか」
パシリって言うか、もはやただの貧乏くじを引き続けるだけじゃねえかこれ。
もはや猛獣と形容できる雰囲気の女子バスケに第三者として突っ込むなんて、よほどの度胸が――とうだうだ思ったところで、俺はあることに気づきその群れに近寄っていった。