第4話
栄凌学園には長い歴史がある。その歴史は日本を代表する著名人を輩出し、栄凌学園の名を全国に知らしめている。
歴史が古い事は、別の問題も発生する。
いつ生まれたのか、誰が始まりなのかわからない。
栄凌学園には謎が7つある。俗に学園七不思議と言われる噂話が存在する。
そしてその中の1つにファントムという怪人の話がある。
数多の才能が蔓延る栄凌学園において、最強は誰か。
柔道部?
空手部?
剣道部?
ボクシング部?
確かめようにもルールが違う。条件が違えば勝負にもならない。結果、最強を示すには、それぞれの土俵に立って全てに勝つしか方法はない。
そんな妄執に取り憑かれた怪人、それがファントム。
あらゆる部活動に戦いを挑み、あらゆる分野を超越しようとする傲慢な挑戦者。
白いマスクにジャージ姿。似合わぬ格好は、しかし話題を集めるには十分だった。
インターハイ前になると、突如として全国大会に出場する選手の前に現れる。
高レベルの競い合いの果てに互いを高め合い、より精錬された技術に昇華させる。
出会えた者には輝かしい将来が約束されると言われている。
つまり栄凌学園のアスリートにとっては、喉から手が出るほど手合いたい存在なのだ!
「ちょっと待て」
酔いしれる様に饒舌に語る室長に対し、結崎君が頭を抱える。
「なんだその存在は。というか七不思議ってまんま怪談じゃねえか。実在するのかよ」
「体育会系の部活動の間で広まっている都市伝説って感じかな。過去には正体を暴こうとした人たちもいたらしいけど、そういう人たちの前には絶対現れなかったって話だよ」
同席していた成美さんが補足する。新聞部として成美さんの情報網はかなり広い。
「じゃあ俺はそれを初めて捕らえたのか?」
「いやこの人たちはただの模倣犯だね」
私たちの前には、神妙な面持ちで正座をしている陸上部のジャージ姿の双子がいた。昨晩の件で結崎君とルナが捕らえた双子だ。
「じゃあ模倣犯が何のための俺たちを襲った? いやなんで模倣なんてしてるんだ?」
「そこは私から話すよ」
双子のそばに立つのは女子バスケ部の白鳥部長だ。以前の部室の鍵事件に関わっていたり、先日の集会では結崎君を庇うなど、何かと結崎君を気にかけている様子がある。
「まずは手荒なことになってしまい、申し訳ない。君たちに怪我なくてよかったよ」
真面目な謝罪ですが、結崎君は無傷で実際に怪我をしているのは双子の方です。
「実は先日の部長会議で、ファントムによる襲撃事件について話が出たんだ。七不思議であるファントムに襲われ、怪我をした部員がいるってね」
「そりゃ手合わせしたんなら怪我くらいすんじゃないのか?」
「んーそこのところは微妙なんだけど、まず前提として、七不思議と言われているだけあって、実際にファントムの姿を見た人は誰1人としていないんだ」
「誰も見てないのになんで噂が流れる?」
「お化けの構造だよ。何故かインターハイ前に急に技術が上がった人が増える。きっと何かある。そんな想いが生んだ存在がファントム。そのはずなんだよ」
川で子供が不自然に溺れる。きっと河童が連れ去ったに違いない。それに近い心理なのかと思う。
「ただここだけの話、ファントムは実在するんだ」
「いるのか?」
「あまり広めるわけではないけど、インターハイを制した先輩方でそんな証言をしている人たちがいるんだ。マスクの人物に出会ったって話」
成功者が語る言葉には信憑性がある。『いるかも』という疑惑が『いるらしい』に変わっていったわけだ。
「ただ、今回はちょっと違う。怪我人が出ているわけだね」
「えっと、結局怪我人がいるいないは、どんな関係があるの?」
室長の言葉に成美さんが首を傾げる。
ファントムに出会うとその後の大会での成功が約束される。それはつまり。
「今までファントムに出会った人の中で、大会に出られない様な怪我をした例はなかった。しかし、今回は実害が出ている。そうですか?」
「その通り。しかも複数件。これはもう偽物、模倣犯の仕業だろうって話」
本物ならそうははならない。偽物だから一線を超えてしまう。
なるほど。ファントムを噂通りの存在だとするには、今話題に出ているのはいささか雑さを否めないわけだ。
「それで? こいつらがこっちを襲ってきた理由がまだだぞ?」
「おっとそうだったね。結局対応を部長会議で話し合ったんだけど、どうにも手に負えない。そろそろインターハイも始まるし、それぞれの部活もピリピリし始めた結果」
そこで白鳥部長は結崎君を指差した。
「君に解決してもらおうって話になった」
「その思考回路で何故俺を襲うって選択肢になるんだ?」
「だって君、自分が襲われたら絶対首突っ込むでしょ?」
白鳥部長の言葉に、結崎君以外が頷く。
「分室に頼るってのに反発する動きもあって、こんな手段になってしまったんだ。体育会系部活動の部長を代表して謝罪するよ」
「結果、正体がばれてりゃ世話ないな」
「その通りだ。だからこれからは正式に分室に依頼するよ。『偽ファントムの正体を突き止めて、これ以上被害が広まらない様にしてほしい』」
背に腹は変えられないというところ。本業に支障が出ては元も子もない。ただ、やはり思うところはある。
「実際に被害が出ているのであれば警察に届け出るのは?」
「被害届を出すにも、活動に少なからず支障が出てしまう。それにOBOGならまだしも、外部にファントムなんて話しても通じないよ」
だから身内で処理をする。この学園にありがちな対応手段だ。
「というわけで影宮。依頼は受けてくれるかい?」
「そうだね。今が盛りの部活動の功績を濁らせたくはないし、承諾するよ」
インターハイの功績は学校の宣伝にもなる。私自身、愛校心の塊というわけではないが、母校が賑わうのは嬉しいことだ。
そして犯人は少なくともそれなりの武術を嗜んでいる可能性が高い。多少荒れたことがあっても、結崎君ならば問題はないだろう。
今ならばルナもいるのだ。
話の行く末を悟り、私は今日届いている依頼者の処理に思考を切り替える。
「ただ、対応する人選はこちらに一任してもらうよ」
「というと?」
室長の言葉に白鳥部長は首を傾げる。
「この件は結崎君ではなく、君塚さんに担当してもらう」




