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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
アルテミスの弾丸
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第13話

《彼女の動きはどうだい?》


 室長の声は、電話越しでも分かるほど神妙そうなものだった。


「滞在中は大人しくしているそうだぞ」


 時刻は十一時過ぎ。日課のトレーニングが終わり、風呂で汗を流し終わったところで電話が鳴った。誰からの、どういう着信であるかは大体予想がついていた。


《その言葉を素直に信じられるほど、今の僕は冷静では無いよ》


「無理もない。ただあいつも言っていたが、デュオニューソスの農場にいる時点で、あいつの制約もかなりのものだ。よほどのことが無い限り、騒ぎは起きないだろうよ」


《そのよほどのこと、が起きないと断言できるかい?》


「残念ながら、十中八九起きるだろうな。そうじゃなきゃあいつが学園に来る意味がない」


 俺の言葉に、室長は一度考え込むように相槌を打つ。


《つまり十二柱の一角であるアルテミスの後継者が、別の十二柱の支配下に置かれるという状況は異常だということでいいのかな?》


「よほどのことが無い限り、聞いたことが無いな」


《よほどづくしだね。本当に嫌になる》


 室長の苛立ちが、この件の決定者に向けられているのが良く分かる。


《国防長官射殺。あれが発端だと推測するけど、君の方で何か聞いているかい?》


「関係がない事は無いだろう。国防長官はデュオニーソスの配下だ。それをアルテミス側が射殺した。おそらく勅命が下った」


《勅命?》


「…………オリュンポスの統括存在。絶対にして唯一の存在、ゼウスの雷だ」


《そこまで言うとは、ゼウスって他の十二柱とは……いや、ちょっと待とう。そもそもそれは僕が聞いてもいいものなのかい?》


「紛れもなく組織内でも超トップシークレット。ICPUが血眼になっているオリュンポスのボス。上級幹部クラスしか知りえないはずの情報だ」


《おいまじかよ、聞きたくなかった。いや、君、分かっていて僕に言ったな?》


「これであんたもお仲間さ。ともかくだ。ゼウスの勅命が下るのはそうそうない。あいつの言葉が正しいなら、俺が捕まったことで狂いが生じたらしい」


《もうやだ。僕を巻き込まないでくれ。好奇心は猫をも殺すんだよ?》


「知らない間に殺されるか、知っていて立ち向かうかはあんた次第だ」


《……知らんぷりはできないんだね》


 深いため息が聞こえる。


《つまり君が捕まったことで何かが狂った。その余波を修正するために、国務次官が殺された》


「おそらくデュオニューソス内で何かがあった。そして身内のツケをアルテミスに払わせたから、ルナの身柄をデュオニーソスが保証した。あいつはなんて言ってたんだ?」


《同じ十二柱に連なる者だからいい機会だとか何とか》


「という事はデュオニューソス側ではなく、ここに潜伏する意思はアルテミス側ないし、ルナの独断か」


 ただ身を隠すにも事情がある。俺の逮捕がオリュンポスの何かを狂わせたのと同様に、ルナがここにいることにも何かしらの裏がある。


歓迎できない何かが。


「この件を知っているのは?」


《契約上、彼女の身柄に関しては僕と君以外は知らないはずだ。君との関係については話がついているみたいな口ぶりだったけど》


「ルナには緘口令が出されている。栄凌学園の生徒の情報は持ち出せない」


《君のことは、黙っていろっていられるレベルの情報かい?》


「そこはルナとデュオニューソスとの契約次第だな。ただ、組織内での契約違反は重罪だ。いくらそこに正当性があろうとも、契約が優先される」


《君を含めた生徒の情報を引き出さないことの対価は?》


「さぁな。何も知らずにOKしたか、また別の要求を出したかは分からない」


 もしルナが栄凌学園に何かしらの目的で侵入したとしたら。どんな目的なのかは想像もできない。


 本人に聞いても「観光だよ」とか言いそうだ。


「どうせ問題が起きた時にあーやが俺にキレるんだろ? 目に見えてるぞ」


 あの正義感真っ直ぐ娘には前科がある。


《ともあれ、彼女の監視は頼んだよ》


「俺がお目付け役とか世も末だな」


《能力が高いのも考え物だね》


 一瞬悩んだが、返事を止めてそっと電話を切った。

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