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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
アルテミスの弾丸
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第12話

 その言語はそもそも国際的に認められた公用語などではない。


 今のルナの言葉はこうだ。


『そんな日本が僕はだいっ嫌いだ』


「流石だね。一年以上使ってないはずの組織の言語をその場で切り返せるとは」


 組織。その言葉は軽く聞き流していいものではない。


「でもそれが無理なのは君も分かってるだろ? デュオニューソスの農場にいる時点で僕は彼の制約を受ける。僕が意図的にこの学園の生徒に危害を加える事は禁止されている。それは君も含めてだよ、グラウクス」


 お互い、先ほどまでと口調に変化はない。


 ただ、話す内容はもう平穏とは程遠いものになっている。


 ルナ・アルティミーザ。世界を敵に回す国際犯罪組織『オリュンポス』の一員である存在は、俺の前で不敵に笑った。


「全く驚いたよ。分室に入ったところで君に出くわすとはね」


「それは俺の台詞だ。と言いたいところだが、俺の方では薄々気づいてはいたさ」


「それはどうして?」


「国務次官射殺、あの条件で撃てるのはお前らくらいだ。んで流石に足がつきそうだからそのまま日本に潜伏しようって腹だろ? FBIの枝豆が必死に捜査してたぞ」


「ボーン坊やか。いやいや今回は僕らにとっても不測の事態だったからね。少し無理な条件でも通す必要があったんだよ」


「だからと言って軽率すぎるな。FBIも薄々気付いているぞ」


「そうするしかなかったのは、一年前にどっかの誰かが捕まったからなんだよね」


「…………」


「だからこそ彼は確信を持てた。組織に一太刀入れられると思ってしまった。そのツケが、今こうして清算されたわけだよ」


「頼んでないけどな」


「だろうね。君は国連極秘の収容所で拷問の嵐って聞いたけど、まさかこんなところで学生ライフを楽しんでいるとは想像も出来なかったよ。一体どんな手品を使ったんだい?」


「教える義理は無いな」


「つれないなぁ。僕と君の仲じゃないか」


「俺はまだ殺されたインコのことを恨んでるが?」


「その後全裸で天井から貼り付けたのは誰だい? これでも僕は女の子なんだよ?」


「女だろうが、やられたカリは返すのが俺だ」


「君のそういうところ、好きだよ」


 懐かしむようにルナはコーヒーに口をつけた。


 今朝、そして昼間に話題に上がった国務次官射殺事件。その犯人こそ、次期アルテミス後継者であるこのルナ・アルティミーザに他ならない。十二柱幹部の後継者として、俺もそれなりに面識がある存在。普通の学生の中に混ざってはいけない、腐ったみかんを超える不純物質。


「デュオニューソスがあれほど釘を刺してきたのは君がいたからか。なるほど、確かに契約では学生の情報すらもち出す事は禁止されている。これじゃあデュオニューソスが君を匿っていることが伝えられないじゃないか」


「別に伝えたければ伝えればいいだろ」


「十二柱同士のいざこざなんて、喜ぶのは他の奴らだけだよ。しばらく任務は出されないと思うし、僕としてもこの休暇を楽しもうとは思ってるんだよ?」


「問題を起こさないのならどうでもいい。好きに生活しろ。どうせ九月から留学するつもりじゃないんだろ?」


 留学はただの身を隠す口実だ。学生と言う身分は色々な制約に縛られることが多いが、ある意味では身を保障する最大の武器になりえる。何かの容疑がかけられれば学校にいた事をこじつける力をこの学園は持っている。アリバイを簡単に作る事が出来るわけだ。


「これでも忙しい身だからね。しばらくとは言っても、いつ仕事が入るか分からない。でも学校に通ったことなんて殆ど無いから、楽しもうと思ってるのは本心だよ」


「しばらく銃は握れないぞ?」


「クレー射撃部があるそうじゃないか。ちょっと顔を出してみようと思うんだ」


 最悪に近い状況から二キロメートルの狙撃を完遂させた化け物に、高校生のスポーツをエンジョイさせるのはいかがなものか。物を撃つのとは違う、生きた人間の狙撃は、しかし同様の技工により生み出される。この二つの違いは狙撃手が何を狙うかだけ。

 

 人殺しの技術とは、意外に近くに存在する。


 それこそ、首を絞めるだけで人は簡単に死ぬのだから。

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